海外文学読書録

書評と感想

ジョン・フォード『リオ・グランデの砦』(1950/米)

★★★

騎兵隊のカービー・ヨーク中佐(ジョン・ウェイン)は、メキシコ国境近くの砦に駐屯していた。現地ではアパッチ族が西部を荒らしてはメキシコに逃げていく戦術を繰り返しており、その対処に困っている。ある日、砦に中佐の息子ジェフ(クロード・ジャーマン・ジュニア)が新兵として赴任してきた。さらに、別居中だった妻のキャサリーン(モーリン・オハラ)も、息子を除隊させようと砦にやってくる。

文芸志向の西部劇でちょっと退屈だった。ただ、全体的にノスタルジーを基調にしているところは興味深い。19世紀なんて20世紀に比べたら確実に生きづらいはずなのに、そういうことを一切感じさせないでいる。むしろ、映画からは憧れの念さえ窺えるのだった。こういうところが保守反動と言われる所以であり、ジョン・フォードの味なのだろう。監督の作家性が強く出ていた。

本作は騎兵隊という「男の世界」を美しく描いていて、そこは現代から見るとやや鼻白むものがある。兵士同士で揉め事が起きたときは衆人環視のボクシングで決着をつけさせているし、保安官が隊内の殺人犯を捕まえに来たときは同じ釜の飯を食った仲として逃している。人情が法規を上回る、それが男の世界なのだ。本作は理想の男社会を追求している節があって、たとえば前者のボクシングでは殴り合いの末に両者が和解している。また、後者の殺人犯に至っては戦功をあげさせることによって国から表彰されている。騎兵隊には騎兵隊の掟があり、それがすべての物事に優先しているのだった。

中佐の妻が金の力で息子を除隊させようとするもそれは叶わない。中佐も息子も除隊に必要な署名を拒否している。中佐は「宣誓したことは命をかけて守らなくては」という考えの持ち主で、そのことを妻にはっきり伝えている。これが男の世界の掟であり、女は黙ってそれに従うしかないのである。こういう守旧的な価値観をノスタルジックに描いているところが本作の特徴で、保守反動は伊達ではないと感じる。

もっとも印象に残っているのが、序盤で兵士たちが馬に乗って疾走するシーン。二頭の馬の背中にそれぞれ片足を乗せ、立ち乗りで馬を走らせている。これはローマ式らしい。まるで曲芸師みたいな走りでインパクトがあった。古代ローマの人たちは何でこんな乗り方をしていたのだろう? 自転車の立ち漕ぎじゃあるまいし。乗りこなすのに相当な訓練が必要に見えた。

それにしても、こういう映画を観るとアメリカが征服国家であることを否応なく突きつけられる。つまり、白人がインディアンから土地を奪って国家を樹立した。本作はそれを悪びれもなく表現していて、歴史とは勝者の都合のいいように書き換えられるものだと痛感する。