海外文学読書録

書評と感想

ハワード・ホークス『モンキー・ビジネス』(1952/米)

★★★

化学者のバーナビー(ケーリー・グラント)が、実験室でチンパンジーを使って若返りの薬を研究している。あるとき、檻から出たチンパンジーが勝手に薬を調合してウォーターサーバーの中に入れてしまう。それを知らずに飲んだバーナビーが若者みたいな振る舞いをするのだった。さらに、バーナビーの妻エドウィナ(ジンジャー・ロジャース)も同じものを飲み……。

ブレイクする前のマリリン・モンローが社長秘書を演じている。

時代が時代なのでだいぶ古さを感じるものの、いい歳こいた大人が子供じみたことをするところが楽しく、こういうのはコメディの普遍的なセオリーなのだなと思った。特に主演のケーリー・グラントが弾けている。終盤でインディアンごっこをするところが最高にぶっ飛んでいて、彼がこういう3枚目の役もやっていたとは知らなかった。個人的には、アカデミー賞主演男優賞をあげてもいいくらいである。それくらいトチ狂った役を好演していた。

薬を飲んだケーリー・グラントが散髪して柄物のスーツを着るシーンは、彼が若返ったことを表しているのだけど、この部分、現代の観客にはピンとこないと思う。というのも、その格好がよく似合っているのである。おっさんの若作りには到底見えないし、当時の中年男性のスタンダードにすら見える。それに対し、ジンジャー・ロジャースが娘っぽい格好をするシーンははっきりと若作りしていることが分かって、女性のファッションには年齢に応じた明確なドレスコードがあることに気づいた。それはファッションに疎い僕にすら分かるくらいである。中年になるともうスウィートなワンピースは着れない。この辺、女性は不自由だと同情した。

ケーリー・グラントが開発している薬って、体ではなく心が若くなるので、商品としてはあまり意味がないと思う。心は現在のまま、体だけ若くなりたいのが人類の本音ではなかろうか。劇中でケーリー・グラントが、「若いってことがそんなにいいことか?」と疑義を呈する。若い人間とは、往々にして心が不安定でろくなことをしない。彼自身がそのことを身をもって示している。一連の醜態を見ると確かに頷けるのだけど、しかしこれは開発している薬の性質が悪いだけで、若返らせるならやはり体ではないかと思料するのだった。若い体に壮年の精神。これこそが無敵の人間であり、我々の望む「強くてニューゲーム」なのである。

本作はチンパンジーの演技がすごすぎた。薬の調合をするシーンなんか、どうやって演技指導をしたのか不思議に思うほどである。その様子はまるで人間が中に入っているかのよう。またそれ以外にも、檻の鍵を外して外に出たり、実験室ではしゃぎ回ったり、計算され尽くした立ち回りをしている。まさに驚異のチンパンジーだった。