海外文学読書録

書評と感想

クシシュトフ・キェシロフスキ『ふたりのベロニカ』(1991/仏=ポーランド)

★★★

ポーランドとフランスに同じ容姿をした2人のベロニカ(イレーヌ・ジャコブ)がいた。ポーランドのベロニカは指の怪我をして以来ピアニストの道を断念し、アマチュア合唱団で歌っている。彼女は歌手デビューが決まった。一方、フランスのベロニカは小学校の音楽教師をしており、自身も師匠の元でレッスンを受けている。ところが、ある日そのレッスンを中止することに。そして、彼女は人形遣いのアレクサンドル(フィリップ・ヴォルテール)と出会う。

『Love Letter』の元ネタらしい。

基本的に明るい場所ではセピア色、暗い場所では緑色のフィルターをかけていて、独特の映像世界を作り上げていた。照明にも拘っていたと思う。何でこういう映像にしたのかは謎だけど、途中でフランスのベロニカがステンドグラス越しにアレクサンドルを覗き見するシーンがあったので、これはカレイドスコープ的な試みなのだろうと納得した。現実とはかけ離れた色味を出すことで、見る者に視覚的な刺激を与える。考えてみれば、コンサートやライブでもステージを多彩な色でライトアップしているので、本作みたいな試みは珍しくないのだ。人間の原始的な欲求に訴えかけた画作りと言えよう。

ポーランドのベロニカが死んだのはフランスのベロニカを目撃したからである。これはドッペルゲンガーものの定石だ。そして本作が面白いのは、2人が「霊感」でぼんやり繋がっているところで、片方が犠牲になることでもう片方が救われている。この辺は「ウィリアム・ウィルソン」【Amazon】とは正反対の善性を感じた。だいたいドッペルゲンガーものってどろどろした薄気味悪さを感じることが多いけれど、本作はそれを覆しているのだから面白い。カレイドスコープ的な映像と上手く噛み合っている。

ところで、フランスのベロニカがワイヤレスヘッドホンでカセットテープを聴いていたのには驚いた。こんな昔にワイヤレスヘッドホンなんて存在してたのか、と。デザインも近未来風で、現代人がつけていても違和感ないくらいである。注意して部屋を見ると、ステレオの上にルーターのアンテナみたいな物体が設置してある。カセットテープの時代にここまで技術が進歩していたとは意外だった。

クシシュトフ・キェシロフスキ監督には『トリコロール三部作』がある。フランス政府の依頼を受けて制作した映画らしい。気になるのでいずれ観ようと思う。