海外文学読書録

書評と感想

マイク・ニコルズ『卒業』(1967/米)

★★★

優秀な成績で大学を卒業したベンジャミン(ダスティン・ホフマン)が、自分より20歳も年上のミセス・ロビンソンアン・バンクロフト)から誘惑される。2人はホテルで肉体関係を持ち、以降逢瀬を重ねるのだった。ところが、ベンジャミンはミセス・ロビンソンの娘エレン(キャサリン・ロス)に惹かれるようになり……。

原作はチャールズ・ウェッブの同名小説【Amazon】。

中産階級の憂鬱とそれへの反抗を描いた映画で、当時のアメリカ文学のスタンダードみたいな内容だった。有名作家だと、ジョン・アップダイクがこういうのを書いてそう。当時のアメリカ文学アメリカン・ニューシネマは、同じ背景を持った双子の兄弟という気がする。

ベンジャミンが自らの階級性に無自覚なまま無軌道な振る舞いをするところがどうにも乗り切れなくて、こういう映画を観るには歳を取りすぎたと痛感した。ベンジャミンは欲望の赴くままいきあたりばったりに行動しているし、彼の求愛を撥ね付けつつ同時に受け入れるエレンは、理解不能なトンデモ女にしか見えない*1。結局のところ、物語は階級内におけるコップの中の嵐なので、僕にとっては異次元の出来事だった。

脈なしだったエレンにストーカーまがいのアプローチをするベンジャミンは率直に言って気持ち悪い。なぜそんなに執着するのか謎だった。というのも、しつこく追いかけるほど愛しているようには見えなかったのだ。自分に対する意地、あるいは現実逃避のためにそういうことをしているように見える。ろくに交際してないのに結婚を決意するなんて、まともな大人からしたらあり得ないだろう。一般論を言えば、結婚とはもっとお互いを知ってからするものではないか。ましてや、この時点でベンジャミンはエレンに嫌われていたのである。2人の関係は本当によく分からない。

ベンジャミンはロビンソン夫妻を離婚の危機にまで追い込んでおきながら、それでも娘のエレンと結婚すると宣言していて、こいつはサイコパスかと思った。ミセス・ロビンソンとの不倫を「握手した程度」としか認識してなくて、モラルが著しく欠如している。エレンへのストーカー行為といい、結婚式への乱入といい、彼は徹頭徹尾自分のことしか考えてない。全体を通してベンジャミンのサイコパスぶりが気になった。

ベンジャミン役のダスティン・ホフマンはこの頃からやや鼻につく演技をしていて、特にミセス・ロビンソンと初体験するシークエンスがわざとらしかった。DTアピールがくどすぎると思う。一方、ミセス・ロビンソン役のアン・バンクロフトはさすがの貫禄だった。僕もああいう熟女に誘惑されたい。

*1:自分の母親と不倫していた男を好きになるなんて、特殊性癖にも程がある。