海外文学読書録

書評と感想

ヘンリー・ハサウェイ『ナイアガラ』(1953/米)

★★

カナダ。ナイアガラの滝を一望できるキャビンに、ジョージ・ルーミス(ジョゼフ・コットン)とローズ・ルーミス(マリリン・モンロー)の夫婦が泊まっていた。そこへレイ・カトラー(ケイシー・アダムス)とポリー・カトラー(ジーン・ピーターズ)の新婚夫婦もやってくる。滝の近くで記念写真を撮ろうとしたポリーは、ローズが見知らぬ男(リチャード・アラン)とキスしているのを目撃する。そして、ローズはその男と組んで夫を殺害しようとしていた。

ナイアガラの滝をネタに一本映画を撮りますか、といった感じの企画もの。マリリン・モンローが退場してから急速につまらなくなった。

本作はジョゼフ・コットンが主役なのだけど、彼でさえもマリリン・モンローの華やかさには霞んでしまうのだから驚く。マリリン・モンローはヒールを履いて歩いている姿が様になっていて、特にケツをふりふりする後ろ姿は芸術的と言っていいほどだった。あれが世に名高いモンロー・ウォークらしい。また、彼女はピンク色をした派手なドレスがよく似合う。出演者の中で一番目立っていて、こんなに華のある女優だとは思わなかった。

ジョージにとってナイアガラの滝は自由のシンボルであり、それがローズの奔放さと重ね合わされている。そして、もう一人のヒロインであるポリーは、その上の川を流れる漂流物だ。この図式は後の伏線になっていて、ジョージもポリーも滝壺へ流れる漂流物と化す。2人の乗ったボートが燃料切れを起こして危機的状況に陥る。最後はジョージだけ滝壺に落ちて死んでしまうのだけど、これはローズによる復讐といった意味合いもあるのだろう。ローズを絞め殺したジョージは、ローズのシンボルであるナイアガラの滝によって、敢え無い最期を遂げるのだった。その瀑布の激しさはまるで悪女たるローズの情念のようで、いい女との交わりは時に命の危険を伴うものだと思わせる。

ジョージは朝鮮戦争に従軍して戦争神経症になっていた。彼はのっけから異常行動を起こしていて、衆人環視の元でレコードを粉々にしたり、ポリーの前では机を蹴倒したりしている。その暴力性はすべてローズの浮気に端を発していた。ジョージは障害ゆえに仕事も上手くいかず、冒頭では滝を前にして「私だって時間さえあれば大物になれる」と独白している(滝がローズのシンボルであることに留意されたい)。殺人という大罪を犯すとはいえ、なかなか気の毒な境遇だった。

特筆すべきは、ジョージがローズを絞殺するシーン。無音で鐘を映すのがとても良かった。