海外文学読書録

書評と感想

是枝裕和『ワンダフルライフ』(1998/日)

★★★

死んでからあの世へ旅立つまでの一週間。スタッフたちが22人の死者を迎え、各人に一番大切な思い出を選ぶよう通達する。そうすることで、死者たちは大切な思い出だけを抱えて死後の世界に旅立つことができるのだ。望月(ARATA)、しおり(小田エリカ)、川嶋(寺島進)、杉江(内藤剛志)らが、死者の思い出選定を手伝う。

大島渚っぽいドキュメンタリータッチの映画だけど、大島渚はこういう映画を撮らないから、手法だけ影響を受けているような気がした。似てるようで実はそんなに似てない。ただ、後年の『万引き家族』はもろに大島渚『少年』)である。

当初はこの映画のコンセプトに気乗りしなくて、「一番いい思い出だけを残して他は忘れる」って何か嫌だなと思った。どうせだったら良いことも悪いこともすべて記憶したままあの世に行きたい。案の定、劇中で伊勢谷友介が「過去の同じ瞬間だけ生きていくことはものすごくつらいこと」と言っていて、自分の心情を代弁してくれていた。序盤のキーパーソンはこの伊勢谷友介だ。彼は過去よりも未来を志向しており、スタッフに向かって「思い出を選ばない」と言い放っている。伊勢谷友介は本作の状況設定に対するアンチテーゼと言えよう。僕は彼の言い分に同調し、その立場を支持しながら観ていた。

ところが、スタッフの出自が明かされることで雲行きが変わる。彼らはみな思い出を選べなかった人たちであり、それぞれ深刻な事情を抱えていた。そこから望月を交えた三角関係に至るところはアクロバティックで、虚しさと目出度さがないまぜになった複雑な気分にさせられる。いやだって、結婚相手よりも戦死した婚約者を選ぶなんてあんまりだと思う。半世紀に及ぶ結婚生活は何だったのだろう? 望月が成仏を決心したのは結構なことなんだけど、しかし、それはそれでしこりが残る。一番いい思い出だけを選ぶのは酷だと痛感した。

思い出を再現した映像を制作するのが何とも虚しくて、いちいち作る必要があるのかとツッコんだ。セットも学芸会並にしょぼいし。思い出は心の中に存在するからこそ美しいのであって、それを形にしてしまったらもはや虚構である。現実とは異なる別の何かである。そんなわけで、一連のシークエンスはどうにも納得がいかなかった。

ところで、素人臭い演技が逆にリアルに見えてしまう現象はいったい何なのだろう? アニメで言えば、近年の宮崎駿の映画がそうだ。自然と不自然の逆転。日本映画の可能性はもはやここにしかないのではと思えてきた。