海外文学読書録

書評と感想

上田慎一郎『カメラを止めるな!』(2017/日)

★★★★

郊外の廃墟でゾンビ映画の撮影が行われていた。ところが、クライマックスシーンの撮影でOKが出ず、42回もリテイクすることに。監督(濱津隆之)はキレて女優(秋山ゆずき)に詰め寄る。出演者の取りなしで一旦休憩に入るも、廃墟に本物のゾンビが現れてパニックになる。

低予算映画らしいからもっと尖った内容なのかと思っていたら、案に相違して娯楽要素が強かった。

序盤の劇中劇は37分をワンカットで撮るという趣向だけど、カメラワークが際立っていて見応えがあった。これは廃墟という舞台設定が良かったのだろう。俳優たちが垂直方向・水平方向を動き回り、それをカメラが懸命に追いかける。この動線がよく考えられていて、およそ低予算映画とは思えなかった。カメラワークに関しては、ヒッチコックの某疑似ワンカット映画【Amazon】よりも技巧的だと思う。一人の人間を追いかけつつ急に後ろを振り向くところとか、最後まで劇中劇を捉えきっているところとか、その段取りの良さは熟練の殺陣を見ているようである。

中盤からの伏線回収パートは、良くも悪くも邦画のノリで、個人的にはそこがマイナスポイントだった。洋画に慣れていると、俳優の演技に違和感がある(最近取り上げた『シン・ゴジラ』もそうだった)。ただ、伏線の回収自体は文句のつけどころがない。ここでは劇中劇が台本通りに進んでいなかったことが明かされ、そのトラブルのひとつひとつが本番にどのように反映したのか、実証的に表現されている。ここは娯楽性が高いうえに回収の仕方も見事で、劇中劇をなおさら素晴らしいものとして印象づけている。カメラワーク以外にも注目すべき点があったのだなと感心した。

濱津隆之演じる日暮監督は、「速い」「安い」「質はそこそこ」という志の低い人物だ。しかし、それが役者として劇中劇に出た途端、まるで正反対の狂気を見せていて、そのギャップは目をみはるものがあった。予期せぬトラブルに対応して生放送を乗り切るあたり、実はかなり優秀なのではと思える。あの狂気こそが日暮監督の本質なのだろう。仕事を通して自身の能力を発揮するのは誰もが持つ願望なので、見ていて清々しい気持ちになった。

なお、本作を監督した上田慎一郎は昔からアクの強い人物だったようで、アマチュア時代に2ちゃんねるにスレが立っている(【一生青春】ワクテカを語るスレ)。当時のスレ住民は、結果を出した上田氏を見てどう思うのだろうか?