海外文学読書録

書評と感想

シェーン・ブラック『ナイスガイズ!』(2016/米)

★★★

1977年のLA。示談屋のジャクソン・ヒーリー(ラッセル・クロウ)がアメリア(マーガレット・クアリー)という女性の依頼を受け、私立探偵のホランド・マーチ(ライアン・ゴズリング)を暴行する。マーチは老婆からの依頼でアメリアの調査をしていた。ところが、ヒーリーが殺し屋の襲撃を受けてから事態が一変する。ヒーリーとマーチ、さらにマーチの娘ホリー(アンガーリー・ライス)の3人で、アメリアの捜索をすることになった。

古き良きバディものに子役の娘をプラスしたところが現代的なのかな。失踪人探しは私立探偵小説の定番だし、さらによく分からないうちに事態が推移するところも私立探偵小説っぽい。ミステリ好きにとっては馴染み深いストーリーだった。

映画のトーンとしてコメディ調にしたのは良かったかも。とにかく死人が多いし、血まみれになる描写も少なくない。シリアスでやったらえげつなくなったのではないか。コメディ部分については、巨根を自称するマセガキとか、抗議活動の一環として階段で寝そべる集団とか、小さく笑えるシーンが散りばめられている。大きな笑いを狙うと滑ったときに大怪我をするので、これはこれで最善を尽くしていると言えよう。

ヒーリーを演じるラッセル・クロウはしばらく見ない間にえらく太っていて、『グラディエーター』【Amazon】の面影はもはやなかった。いかにも暴力が好きそうな風体をしている。一方、マーチを演じるライアン・ゴズリングは、ヒーリーに腕を折られたときの悲鳴や森で死体を発見したときのリアクションなど、コミカルな演技が冴えている。結局のところ、バディものとはおっさん同士の関係を愛でるジャンルなので、2人のキャラ付けは上手くいっているように見えた。

道路に飛び出したアメリアが、通りがかった車に助けを求める。ところが、その車は自分を始末しに来た殺し屋が運転していた。ここでアメリアはあっけなく射殺されてしまう。この展開は皮肉が効いていて、個人的には一番好きなシーンだった。ここはもっと前のシーン――別の殺し屋が車に轢かれて重体になって、通りがかったヒーリーにとどめを刺されるシーン――の変奏になっている。よく考えられた脚本だなと思った。

また、本作はガラスを効果的に使っている。序盤ではマーチがパンチでガラスを割る。これはまだ小規模。中盤では人間がガラスを突き破って外に飛び出す。これは中規模。そして、終盤ではマーチが高い場所から落下してガラスが砕け散る。これは大規模。物語が進むにつれて、ガラスの割れ方が派手になるのがいい。