海外文学読書録

書評と感想

是枝裕和『誰も知らない』(2004/日)

★★★★

アパートに母親・けい子(YOU)と長男・明(柳楽優弥)が引っ越してくる。荷物の中から次男・茂(木村飛影)と次女・ゆき(清水萌々子)が現れ、さらに外では長女・京子(北浦愛)と合流する。けい子は明の存在だけを公にし、残り3人のことは世間から隠して育てていた。当然のことながら全員学校に行かせてない。ある日、けい子が現金と書き置きを残して失踪、子供だけの生活が始まる。

同じ監督の『万引き家族』は本作の変奏じゃないかと思った。社会制度の隙間を題材にしているところといい、寄せ集めの家族を描いているところといい、根底にある問題意識が共通している。

人間は人混みの中でこそ孤立するのだろう。子供たちは都市部で漂流しているような感じで、社会制度からこぼれ落ちながら生活している。むしろ、自ら社会に取り込まれるのを拒否していると言ったほうが正しい。彼らが福祉に頼らないのは、行政にバレたら兄弟が引き離されると信じているからだ。子供たちはそれぞれ父親が違うし、親権がどうなっているのかも分からない。それどころか、戸籍があるのかどうかも不明である。だから、仮に行政に頼ったとして、今後も円満に暮らせるかは未知数だ。と、そういう事情があるので、彼らは不便を受け入れつつ、社会の隙間でこっそり生息している。生きる希望になっているのは、失踪した母親が帰ってくるかもしれないという期待だけ。電気・ガス・水道が止められても、行政に頼らず何とかやりくりしている。人間はこの地上に存在する限り、どこかに所属しなければならない。行政に存在を捕捉されなければならない。都市部で漂流している彼らは、社会のシステムエラーみたいなもので、日本の社会制度が不完全なことを物語っている。現行の法律では彼らを救うことはできない。

母親のけい子は、ネグレクトをしているとはいえ悪い人物ではない。ただ、大人として最低限必要とされる責任感が欠けているだけである。ひょっとしたら発達障害か知的障害を抱えているのかもしれない。少なくとも、子供と一緒にいるときは愛想がよく、何か粗相をしても体罰を与えないだけの分別はある。とはいえ、子供たちには身勝手なエゴを押し付けている。学校に行かせなかったり、外に出るのを禁じていたりする。愛情を餌に子供たちを従わせているのだ。このやり方は傍から見ると悪辣で、子供たちを救うにはまず彼女をどうにかするしかないと思わせる。しかし、そんな母親でも親であることには代わりがなく、子供たちを彼女と引き離すべきかは疑問だ。引き離したら当然、子供たちは施設送りになってしまう。誰もそんなことは望んでいないだろう。そこが家族関係の難しさで、ここにも社会のシステムエラーが存在するのだった。

この社会は完璧ではない。いくらでも隙間が存在する。本作はその事実をこれでもかと突きつけてくる。