海外文学読書録

書評と感想

ルイス・アレン『三人の狙撃者』(1954/米)

★★★★

大統領が列車でカリフォルニア州の田舎町サドンリーを来訪することになった。地元警察のトッド・ショウ(スターリング・ヘイドン)やシークレットサービスの面々が、警備体制を整えるべく大わらわになる。そんななか、未亡人エレン(ナンシー・ゲイツ)の家に、FBIを名乗る3人の男たちがやって来た。彼らは、ジョン・バロン(フランク・シナトラ)、ベニー・コンクリン(ポール・フリーズ)、バート・ウィーラー(クリストファー・ダーク)と名乗り、丘の上にあるこの家が狙撃に使われないか見張ると言ってくる。

フランク・シナトラ主演のフィルム・ノワール。彼が複雑な内面を持った殺人鬼を好演していて面白かった。シナトラ演じるバロンは、一見すると金で殺しを請け負うプロフェッショナルみたいだけど、その割には人質相手にペラペラと自分語りをしたり、仕事の手順が雑だったり、どこか素人臭いところがある。彼は戦場でたくさんの敵を殺したことが自慢のようで、それが高じて大統領暗殺計画の実行犯に志願したようだ。過酷な戦場体験で歪んでしまったのか、それとも自分をサイコパスだと思わせたいのか、その辺の真相は分からない。けれども、人質相手に感情を剥き出しにし、人間性を全開にしているところが面白く、久々にヒューマンドラマを観た気分になった。

「銃」が本作のキーアイテムになっている。未亡人のエレンは夫を戦争で失ったことから、銃を過剰なまでに忌避している。息子がおもちゃの銃を欲しがることすら許さない。その一方、義父や保安官といった周囲の男たちは、現実を知ることの必要性を説いている。この世界は暴力に満ちており、銃がないと身を守ることができない。平和や人権といった理想だけでは暴力に対抗できないのだ。このテーマが作品全体を貫いていて、中盤ではバロンが人質相手に、「銃を持てば神様」とか「銃があれば人の生死をコントロールできる」とか言い放っている。実際、人質になった男女は銃によって制圧されたのだった。このように銃の暴力性を中核に据えたところが本作の肝で、結果的には一本芯の通った映画に仕上がっている。

現代になってもなぜアメリカは銃社会なのか? 本作にはその根底にある思想が描かれている。なのでアメリカ文化に興味がある人は必見だろう。