海外文学読書録

書評と感想

藪下泰司、大工原章『少年猿飛佐助』(1959/日)

★★★

信濃の山里。少年佐助(宮崎照男)は姉のおゆう(桜町弘子)と二人暮らしをしており、いつもは動物たちと遊んで暮らしていた。あるとき、鹿が湖に落ちた子鹿を救おうとして山椒魚の犠牲になる。その山椒魚の正体は夜叉姫(赤木春恵)だった。佐助は夜叉姫と戦うも敗北。捲土重来のため、忍術を修行しようと旅に出る。

『わんぱく王子の大蛇退治』が『ONE PIECE』型の物語だとすれば、修行して敵を倒す本作は『ドラゴンボール』型の物語だと言えるだろう。実際、桶運びの修行は亀仙人の修行を彷彿とさせるし、また、棒切れを使った模擬戦はかりん様の修行のようである。修行して強くなって悪者を倒す。そのシンプルな筋書きは、後の子供向けアニメの定番になるのだった。

前述の事情もあって、物語そのものはこちらの想像を超えるものではない。しかし、序盤の水中戦だったり、中盤の夜叉姫の踊りだったり、終盤の忍術バトルだったり、部分的に見所があるのも確かだ。結局のところ、アニメとは「動き」を見せてなんぼなので、物語はさほど凝らなくてもいいのが強みだろう。何より、クマやサルといった動物たちが愛らしく、彼らを見ているだけでも癒やされる。日本アニメに他の追随を許さない長所があるとしたら、それは動物を可愛くデフォルメするところだと思う。

物語の途中で、佐助の姉おゆうが山賊に誘拐される。彼女は上田城真田幸村中村嘉葎雄)に見初められるほど器量が良く、信濃の山里にはもったいないくらいの美女だ。そんないい女が荒くれ者たちに拉致監禁されるのだから、普通だったらただでは済まないだろう。貞操の危機を迎えることは想像に難くない。しかし、本作は子供向けなのでそこはマイルドになっている。ボスの夜叉姫から鞭を一発食らうだけで済んでいる。こういう配慮に大人の事情が垣間見えて、その苦労が忍ばれるのだった。

配慮と言えば、真田幸村が山賊たちと斬り合いをするシーンにもそれが見られる。幸村は真剣で山賊たちをバッサリ斬り伏せていくのだけど、血飛沫ひとつあがらないし、相手が傷を負った様子もない。刀で斬る際のSEもなく、山賊たちはただ無音で倒れている。ここは実写の時代劇と大きく異なる点で、子供に向けた配慮が窺えるのだった。

それにしても、佐助たちは何が悲しくてこんな人里離れた山奥に住んでいるのだろう? 彼らの住まいは今話題の限界集落どころではない。周囲に岩肌しかないポツンと一軒家である。農業や牧畜をする場所もなく、まるで仙人が住むような土地だ。姉弟とも今はまだ若いから生活できているけれど、老人になって足腰が立たなくなったら餓死するのではないか。見ていて先行きが心配になった。