海外文学読書録

書評と感想

藪下泰司『白蛇伝』(1958/日)

★★★

西湖の畔に住む許仙(森繁久彌)は、幼い頃、小さな白蛇を飼っていたが、大人たちに叱られて野原に捨てた。それから十数年後、白蛇は美しい少女・白娘(宮城まり子)に変身する。白娘は許仙の気を引こうと胡弓を奏でるのだった。

原作は中国古代の四大民間伝説とのこと。

印象としては、『聊斎志異』【Amazon】に収録されていてもおかしくない怪異譚といった感じだった。アニメファンなら、物語シリーズAmazon】の千石撫子を連想するかもしれない。

日本初の総天然色漫画映画らしいけど、アニメーションとは「動き」だと言わんばかりに色々な物を動かしていて、その野心的な試みに感銘を受けた。パンダとレッサーパンダが飛び跳ねて踊るシーンとか、木彫りの竜が器用に動くシーンとか。あるいは水晶玉のCGっぽい表現や、宝石の光り輝く表現も工夫が凝らされている。とりわけ目を引いたのがパンダと豚の格闘シーンで、昔のアニメのわりにはぬるぬる動いていたと思う。このアクションには爽快感があった。さらに、終盤では海中を舞台にしていて、魚の群れがすいすい泳ぐところは壮観である。総じて、「動き」の快楽を追求しているところが好感触だった。

多数のキャラクターを森繁久彌宮城まり子の2人が演じている。しかし、この辺は演じ分けがちょっと苦しそうだった。なぜ、もっと声優を用意しなかったのか分からない。そして、本作の演技を見て痛感したのが、現代の声優のレベルの高さである。たとえば、『かぐや様は告らせたい?』【Amazon】の第2話では、声優の古賀葵が多数のかぐやを一人で演じていて、その演技の多彩さは神がかっていた。言っちゃ悪いが、『ドラゴンボール』【Amazon】で親子を演じた野沢雅子が稚拙に見えるほどである。現代ではかくも声優のレベルが上がっているわけで、アニメ産業の進歩は恐ろしいものだと痛感する。

ところで、白蛇が美女になって男の前に現れるのって、まるで『鶴の恩返し』【Amazon】みたいだ。こういう変身物語はおそらく民話の類型なのだろう。そして、自分の正体を見られたくない白蛇/鶴は、惚れた男にすっぴんを見られたくない乙女心を反映している。ここに時代を超えた女性像が垣間見えて興味深い。