海外文学読書録

書評と感想

ジョン・フォード『黄色いリボン』(1949/米)

★★★

1876年。第七騎兵隊がインディアンとの戦いで全滅した。スターク砦のブリトルス大尉(ジョン・ウェイン)は、あと6日で退役の予定だったが、最後の任務としてシャイアン族が跋扈する付近のパトロールを指揮することになる。同時に、隊長夫人(ミルドレッド・ナットウィック)とその姪オリヴィア(ジョン・ドリュウ)も隊に同行し、2人の護衛も兼ねることに。オリヴィアは黄色いリボンを身に着けていた。騎兵隊では、黄色いリボンは恋人を意味する。

本作を観ていたら、西部劇の主人公は馬のように思えてきた。馬が生きて動いているだけでも映画を観ているような気分になる。というのも、現代人は馬なんてテレビの競馬中継くらいでしか見ないから。馬は非日常なのである。人間が馬に騎乗するのは相当な特殊技能だと思うし、これからも僕は馬を目当てに西部劇を観るだろう。

馬関係でもっとも印象的なのが、士官が10人ほどのインディアンに追いかけられるシーン。馬が全力疾走する様子は迫力があった。しかも、ただ走るだけでなく、馬を二本足で立ち上がらせてターンまでしている。あんなに器用に馬を乗りこなせる人間は、おそらく現代にはいないのではないか。演者による職人芸を堪能した。

また、これと同じくらい印象的なのが、インディアン居留地に停泊していた多数の馬が、騎兵隊に追い立てられて暴走するシーン。終盤にある本作のハイライトである。ここは数の暴力で押し切っていて迫力があった。この手の映像を見るたびに思うのだけど、監督はどうやって馬を制御しているのだろう? こんなに多数の馬が死ぬほど全力疾走している。しかし、いずれは止めなければならない。どうやって走らせて、どうやって止めたのか。撮影の裏話を聞きたいところだ。

ブリトルス大尉のマッチョな性格は、ジェンダー規範の緩んだ現代人が見ると、正直なところかなり違和感をおぼえる。彼は「男なら簡単に謝罪するな」が口癖で、どうやら謝罪が弱さに通じると思っているらしい。ただ、この論理は男性だけでなく、女性にも適用している。軍隊で弱さを見せるのはいけないことなのだろう。キャラ付けのためのエピソードとはいえ、やはり昔の映画を観るときは、精神のモードをいくらか変える必要がある。

本作で面白かったのは、酒場で殴り合いをするのがジョン・ウェインではなく、彼のスーツを着たヴィクター・マクラグレン(ブリトルス大尉の従卒役)であるところ。お約束を見事に捻っていた。