海外文学読書録

書評と感想

モーガン・スパーロック『スーパーサイズ・ミー』(2004/米)

★★★

ドキュメンタリー映画。本作の監督であるモーガン・スパーロックが、1日3食・30日間マクドナルドのメニューだけ食べる生活をする。健康だったスパーロックは、みるみるうちに不健康になっていく。

その昔、『進ぬ!電波少年』というバラエティ番組で、お笑い芸人のなすびが密室に全裸のまま閉じ込められて懸賞生活をしていたけれど*1、ノリとしてはあれに近いかもしれない。映像を見る限りでは、どちらもあり得ないくらい体を張っている。

社会に問題提起する手段として、このような極端な人体実験をするのは有効なのだろう。実際、アメリカでヒットしたようだし。やる前から結果は分かってるとしても、現実にパフォーマンスをして記録に残すことは重要だ。特にこういう題材は文学ではなかなか扱わないので貴重である。思うに、僕にとって映画とは、文学を補完する存在なのかもしれない。文字にせよ映像にせよ、作品を覗き窓にして世界を知覚しているのである。だいたい文学の愛好家は映画の愛好家でもあるけれども、それはどちらか一方だけでは不十分だからだろう。文学を極めるためには、映画も観なければならない。特にアメリカは、この2つが車輪の両輪になっている。片方だけ鑑賞するわけにはいかない。

本作で焦点になっているのは、自己責任と企業責任の境目だ。確かに肥満は自らの食生活が招いた自業自得の結果である。しかし、その食生活を推奨しているのは、不健康な食品を売っている企業である。軒先でただ売ってるだけなら問題はない。だが、実際は企業と行政ががっちり結びついており、たとえば、子供の通う学校ではファストフードが給食に出ている。誘惑に弱い子供たちをカモにしているわけだ。また、この映画では触れてないけれど、フードスタンプで暮らすアメリカの貧困層は、少ない予算でお腹いっぱいになるファストフードを主食にしているという*2。ともあれ、本作で槍玉にあげられているマクドナルドは、全体的にメニューの分量が多く、見ているだけで胸焼けしそうなくらい。健康な人間からしたら、「食欲を自制すれば」とは思うものの、人間とは欲望に弱い生き物だからそれも酷な話だ。結局は制度的にどうにかするしかないのだろう。問題としてはアルコール依存症に似ていて、ちょっとやそっとでは解決しなさそうに思えた。

スパーロックの恋人がヴィーガンなのも注目ポイントで、アメリカ人の食生活は両極端に別れているような気がした。それもこれもファストフードが蔓延する貧しい食文化が悪い。同じマクドナルドが題材ということで、『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』とセットで観たい映画である。

*1:関連書籍の『懸賞日記』【Amazon】はベストセラーになったそうだ。

*2:堤未果『ルポ貧困大国アメリカ』【Amazon】。