海外文学読書録

書評と感想

ジョン・マッデン『女神の見えざる手』(2016/米=仏)

★★★

ロビイストのエリザベス・スローン(ジェシカ・チャステイン)は大企業でバリバリ活躍していたが、銃規制反対の仕事を振られた際、それを断って別の小さな会社に移籍する。そこで銃規制強化のロビー活動をするも、対抗勢力から妨害を受けることになる。そして、エリザベスは不正を行ったとして聴聞会に立つことに。

ロビイストを題材にしたお仕事映画だけど、主人公のエリザベスが肉食獣みたいな獰猛さで仕事をしていてどん引きした。これがアメリカのビジネスエリートってやつだろうか。勝つためなら手段を選ばないところがサイコパスっぽいし、何より仕事以外に生きがいを持ってないところが恐ろしい。プライベートではせいぜい男娼(エスコートサービス)を買って性欲を満たしているくらいだ。さらに、彼女は睡眠障害を患っていて、日中は目を覚ますための薬を常用している。僕にとって仕事はあくまで食うための手段にすぎないので、ここまで熱を入れている人とは率直に言って反りが合わない。自己実現のためのライフワークはプライベートで行っているので、おそらく話も合わないだろう。こういう都会のビジネスエリートとは関わりたくない、というのが本音だ。

日本に住んでいると銃規制強化こそが正義だと思うけれど、アメリカでは自由を重んじる人が一定数いて、一筋縄ではいかないみたいだ。彼らが支持しているのは、いわゆるリバタリアニズムという政治思想。政府によるあらゆる規制を嫌っている。当然「小さな政府」を推進しており、究極的には夜警国家を目指しているようだ。僕も自由を愛する人間ではあるけれども、それ以上に社会正義を重んじているので、この人たちと分かり合うことはできない。私利私欲よりも公共善のほうが大切だと思っているため、バカ高い税金も嫌々ながら納めている。富の再分配こそが民主主義の本質であり、僕からするとリバタリアンはただの我儘にしか見えない。助け合いこそが社会的動物たる人間の務めだと思っている。

社会で高い地位を得ている女性はフェミニズムに関心がない。これは個人的に大発見だった。というのも、エリザベスはフェミニストの親玉を前にして、「フェミニズムには興味がない」と言い放っているのだ。付言すれば日本の場合、大多数の女性は専業主婦になりたがっている。この層もフェミニズムに興味がないだろう。フェミニストになるのは、上昇志向の強さに反して社会で報われていない人。フェミニズムとはそういう人たちを慰撫するために存在している。自らの不満をおたくに向けて発散するのは迷惑極まりないけれど、その攻撃的な態度にも理由があることが分かって少しは許せるようになった。

本作は構成がなかなか良くて、聴聞会から始まってそこに至るまでの出来事を辿っている。最初にエリザベスが窮地に陥っているところを描いているわけだ。どういう経緯で彼女が失敗し、またここからどうやって逆転するのか。観客の興味を持続させる構成はさすがハリウッドという感じだった。