海外文学読書録

書評と感想

森淳一『リトル・フォレスト 冬・春』(2015/日)

★★★

小森の一軒家で暮らすいち子(橋本愛)は、母・福子(桐島かれん)が赤と緑の2色に分かれたクリスマスケーキを作っていたことを思い出す。その後、キッコ(松岡茉優)とユウ太(三浦貴大)を招いて年忘れお茶会をすることに。様々な冬のイベントをこなしたいち子は、出会いと別れの季節である春を迎える。

『リトル・フォレスト 夏・秋』の続編。

納豆餅や凍み大根など、雪国の食文化が目新しかった。軽トラのナンバーから察するに舞台は岩手県なのだけど、冬は当たり前のように雪が積もっている。僕の住んでいたところは年に1~2回しか雪が降らなかったから、こういう景色は珍しい。大雪が降るなんてことも稀で、もし降ったらあちこちのビニールハウスが潰れてしまう。そして、経済損失がいくらだったと新聞やニュースで報道されることになる。それくらいぬるい土地だったので、日常的に雪かきをする小森はまさに試される大地だった。

なぜ、我々は手間暇かけて料理をするのか? その疑問はバイト先のスーパーで知り合った男の無粋な態度と対比されることで示される。彼は女性から手編みのマフラーをもらったことを仲間に告げ、「そんな時間があったらバイトして買えよ」と放言していた。人が手間暇かけて物を作るのには何か意味がある。マフラーの場合は愛だ。そして、料理の場合も似たような何かがある。作ることそのものに崇高な何かが宿っている。効率の良さばかり追い求めていては、人生における余剰の楽しみを逃してしまう。僕も趣味の時間を捻出するために時間を金で買っているけれど、それでは人生の醍醐味を味わえていないのではないか。意識して無駄な時間を過ごすことが、いわゆる「丁寧な暮らし」なのかもしれない。今度から週末はパンケーキでも焼くことにしよう。

ところで、いち子の家って、猫は飼ってるのに犬は飼ってない。これが不思議だった。だいたい田舎だとどの家も番犬として犬を飼う。客が来たとき分かるように、あるいは留守のときの防犯を兼ねて犬を飼う。毎日散歩させるのが面倒だけど、田舎において犬は生活必需品だ。それをいち子は飼ってない。これは何なのだろうと訝った。

本作の苦手なところは、人間の汚い部分、駄目な部分を許さないところだ。いち子は「町に居場所がないから逃げてきた」とユウ太に非難され、キッコは職場の愚痴を垂れていたら通りがかった祖父に「そんなことするな」と叱責されている。町では許されることがここでは許されない。みんな他人に厳しくて唖然とした。