海外文学読書録

書評と感想

森淳一『リトル・フォレスト 夏・秋』(2014/日)

★★★

東北の限界集落・小森に住むいち子(橋本愛)は、農作業が中心の自給自足生活を送っていた。彼女は自然の恵みを利用して、都会では味わえないスペシャル料理を作っている。時々失踪した母の福子(桐島かれん)を思い出しつつ、近所のユウ太(三浦貴大)やキッコ(松岡茉優)と交流していた。

原作は五十嵐大介の同名漫画【Amazon】。

ド田舎での生活の断片を連ねていく癒やし系映画である。こういう自給自足の生活って、都会に住んでる人が見たら羨望を感じるかもしれないけれど、ほどほどの田舎に住んでいた僕からしたら不便そうとしか思えなかった。確かに自然の風景は美しい。いつまでも愛でていたい気分である。でも、ここに定住するのはかなりきついだろう。実際、いち子も仮の宿と割り切ってるようだし。自給自足の生活って何をするにも手間ばかりかかって、生活のための生活を送っているような感じなのだ。農作業して料理して、農作業して料理しての繰り返し。娯楽がまったくない。ロハスって修行僧みたいな生活だと思う。

ただ、そうは言っても都会に住むよりはほどほどの田舎に住んだほうがストレスはない。今はネット通販があるから買い物には困らないし、田舎なら広大な土地に庭つき一戸建てを構えることも可能だ。都会の人はせいぜい犬小屋みたいなマンションにしか住めない。それに田舎だと満員電車に乗る必要がない。基本的に移動は自家用車である。唯一の不満は近所に映画館や美術館がないところだが、しかし、今は映画をネット配信で観ることができる。ブロードバンドの普及によって、田舎のQOLは格段に上がっているのだ。おそらく都会に住んでる人より幸福度は高いはずである。

この映画で引っ掛かったのが登場人物の服装だった。特にいち子は背景から浮くくらい服が綺麗で、まるで森ガールみたいな華やかさである。だいたい日常的に農作業をしてたら、服はもっとくたびれた感じになるだろう。これじゃあ、映画用の衣装であることがバレバレだ。それと、山の中にハーフパンツで入るのもあり得ないと思った。下手したら虫に刺されたり、植物でかぶれたりする。夏でもズボンは必須である。

さらに引っ掛かったのが稲作のシーンだ。人力で田植えをして、人力で稲刈りをしている。なぜ、田植え機やコンバインを使わないのだろう? 農村では近所の人に機械を借りたり、農協を通してすべて代行してもらったりするのが普通だ。この様子だと、田起こしや代かきも人力でやってるのだろう。いくらド田舎とはいえ、わざわざ手作業しているのは解せなかった。

途中でユウ太が説教臭いことを言ったのはいただけない。自分で物を作ってない人間は信用できないとか何とか。癒やし系映画なのだから、余計な思想は排除すべきだった。