海外文学読書録

書評と感想

成島出『八日目の蝉』(2011/日)

★★★★

野々宮希和子(永作博美)は秋山丈博(田中哲司)の愛人だったが、彼の子を妊娠・中絶していた。そんな彼女が秋山家の赤ん坊・恵理菜を誘拐する。しかし、4年間の逃亡の末に逮捕されるのだった。その後、大学生になった恵理菜(井上真央)のもとに、安藤千草(小池栄子)という記者がやってくる。恵理菜は妻子持ちの男(劇団ひとり)と不倫しており……。

原作は角田光代の同名小説【Amazon】。

男性の僕には母性が分からないので、本作で描かれたのが母性だと言われたら納得するしかない。そもそも、僕には血の繋がらない子供を我が子として育てるのは無理だ。子供を作るのは自分の遺伝子を後世に残すためだと思っている。他人の子供を愛するなんて想像の埒外だ。だからバツイチ子持ち女とは結婚できないし、養子をとるなんてもこともできない。自分の子供にしか家を継がせたくないと思っている。

本作を観ていて『クレイマー、クレイマー』【Amazon】を連想した。我々が誘拐犯である永作博美に感情移入するのは、子供との幸せな生活をたっぷり描写しているからだ。特に小豆島でのシングルマザー生活は、永遠にこの時が続けばいいのにと思うくらいの美しさである。その笑顔の明るさ、絆の深さは、まるで本物の親子のよう。こういうのを見せられたら、血の繋がりなんてどうでもいいように思えてくる。『クレイマー、クレイマー』にたとえると、永作博美ダスティン・ホフマンで、森口瑤子(赤ん坊の実母)はメリル・ストリープのポジションと言えよう。絆とはどれだけ体験を共有するかが重要なのだ。

その後の人生を考えると、赤ん坊は永作博美のところでずっと育ったほうが幸せだったと思う。ただ現実的には、父親がいないから経済的には不安定だし、逃亡犯だから健康保険も使えない。就学時には戸籍の問題も出てくるだろう。そういうハードルの高さはあるにせよ、2人の生活は子育ての理想を体現したものだった。最近、貧乏人は子供を産むなという風潮があるけれど、そんなものはクソ喰らえだ。貧乏だと子供が不幸? 余計なお世話である。幸せとは必ずしも経済的な問題に依拠するとは限らない。裕福な家庭でも不幸な人間はいるし、その逆も然りである*1。むしろ、経済以上に人間関係のほうが幸せに寄与するだろう。家族間で信頼を結べるかが鍵である。

本作のハイライトは、赤い光で充満した暗室で写真を現像するシーン。親子の像が浮かび上がってくるところが感動的だった。カラー映画にはこういうモノトーンの映像がよく映える。それと、本作の主演は井上真央だけど、一番目立っていたのは永作博美だったし、一番いい演技をしていたのは小池栄子だった。

*1:僕の知人に親父の資産20億円という人がいたけれど、彼は自分の無能ぶりに落ち込んで適応障害を患っていた。偉大な父親に引け目を感じて自暴自棄になっていた。