海外文学読書録

書評と感想

森田芳光『39 刑法第三十九条』(1999/日)

★★

夫婦を殺害した容疑で劇団員の柴田真樹(堤真一)が逮捕される。彼の国選弁護人(樹木希林)は法廷で被告の異変を目撃、精神鑑定を請求する。精神科教授の藤代実行(杉浦直樹)と助手の小川香深(鈴木京香)が鑑定を務め、藤代は柴田を解離性同一性障害(多重人格)と診断する。ところが、小川はそれを詐病と訴えるのだった。

90年代の多重人格ブームに乗っかっていることは間違いないけれど、そこを敢えて捻っているところが意外だった。被告人の柴田は本当に多重人格なのか? というのが物語の焦点になっている。

刑法第三十九条への問題提起として、「精神鑑定は鑑定人の主観にすぎない」とぶち上げているのは随分と踏み込んだ見解だ。登場人物にそのままセリフで言わせている。僕はこの方面にあまり詳しくないので、専門家の意見を聞きたいところである。というのも、本作の主張は世論に迎合しすぎだと思うのだ。確かこの時代は心神喪失者の犯罪が社会問題になっていた。ワイドショーでは電波芸人識者たちが、揃いも揃って噴き上がっていたように記憶している。これは許すべきではない。健常者と同じように罰を与えるべきだ。そういう論調が支配的だった。そして、同様のことは少年法でも取り沙汰されており、酒鬼薔薇聖斗の事件が1997年である。本作に少年法の問題が絡んでいるのも、これを意識しているからだろう。結果的には三十九条から軸がぶれてしまったけれど、当時の世相を考えると仕方がなかったのかもしれない。

事件の全体像がなかなか面倒なことになっていて、関係者たちは策を弄しすぎだと思う。戸籍を買い取ってなりすましたり、自分の彼女を他の男に妻として充てがったり。しかも、件の人物は妹を殺した犯人を偶然見つけていて、さすがにそれはないだろうとツッコんだ。酒鬼薔薇聖斗みたいな有名人でさえ身元がバレてないのに……。これだったらガチの触法精神障害者を被告にして、その理不尽さを炙り出したほうが良かった。ただ、そんなことをしたら障害者団体から抗議を受けただろう。テーマがテーマだけに、表現の自由との兼ね合いが難しい。

登場人物がみなボソボソ喋りをしていて、慣れるまでは見るのがきつかった。途中で視聴するのを止めようかと思ったくらい。評価が二分しそうな癖の強い映画だった。