海外文学読書録

書評と感想

中村義洋『殿、利息でござる!』(2016/日)

★★

仙台藩・吉岡宿では、重い使役と年貢により破産者の夜逃げが相次いでいた。造り酒屋の当主・穀田屋十三郎(阿部サダヲ)が直訴状を出そうとするも、知恵者の菅原屋篤平治(瑛太)に止められる。篤平治は宿場を救う策として、藩に金を貸してその利息で使役を賄うことを思いつく。十三郎たちは5千貫文(3億円)の金を集めることに。

原作は磯田道史「穀田屋十三郎」【Amazon】。

実話をベースにしてるらしい。映像がコスプレっぽいのは喜劇だから許せるにしても、ストーリーがかなり甘々で、登場人物のほとんどが善人の人情話なのには辟易した。現代人に向けた教訓みたいになっているところも好きじゃない。

かつて哲学者のアリストテレスは言った。「最大の美徳は、他人の役に立てることだ」と。本作が訴えたいのはまさにそのことで、地元の金持ちたちが宿場のために多大な自己犠牲を払っている。しかも、ある人物に至っては、自身が破産するほどの犠牲だ。中世では金持ちのことを「有徳人」と呼んでいたけれど、ここで描かれた商人たちは文字通りの有徳人である。身分が低いのにノブレス・オブリージュの精神が宿っている。序盤である人物が、「近頃の民は己が得になることばかり」と嘆いていたけれど、これはそのまま現代の我々に投げかけた言葉だろう。ホリエモンに代表される通り、現代人のほとんどは拝金主義者だ。資本主義の原理に従って私利私欲に走っている。万事がその調子だから、胡散臭い儲け話に騙される者が後を絶たない。ともあれ、本作が古代ギリシアにまで遡る「美徳」を描いているのは間違いないだろう。江戸時代のご先祖様はこんな立派なことをしたのに、子孫である我々は何と不甲斐ないことか。本作はそういうメッセージを発している。

それにしても、吉岡宿はかなり寂れた宿場町なのに、5千貫文(3億円)も現金を集めたのには驚いた。しかも、1人は1千5百貫文(9千万円)も出している。1口5百貫文(3千万円)でもすごいのに、その3倍も出すとはどれだけ金持ちなのだろう。造り酒屋と高利貸しはそんなに儲かるのだろうか。あんな田舎でそれだけ金を持っているのは想像の埒外で、「あんたすごすぎるよ」としか言いようがなかった。

藩の財政担当を松田龍平が演じている。これが威圧感抜群ではまり役だった。人を2~3人殺してそうな迫力がある。一方、仙台藩主は羽生結弦が演じていて、こちらは華があってよく似合っていた。演技も違和感がない。若き名君といった趣である。