海外文学読書録

書評と感想

岩井俊二『Love Letter』(1995/日)

★★★★

神戸に住む渡辺博子(中山美穂)が、山で遭難した婚約者の藤井樹の三回忌に出る。その帰り、彼の実家で中学時代のアルバムを見せてもらい、そこに書かれた彼の住所をメモする。神戸に帰った博子は、彼が住んでいた小樽の住所へ手紙を送るのだった。すると、そこから返事がやってくる。相手は婚約者と同姓同名の女性・藤井樹(中山美穂)。中学時代に婚約者の藤井樹と同じクラスだったという。やがて思い出話が語られる。

中山美穂一人二役を演じていたので、最初は随分と奇を衒った映画だと思った。ところが、観ていくうちに必然性のある配役だったことが分かって感心した。つまり、渡辺博子と藤井樹(女性)はそっくりさんじゃないといけなかったのだ。この2人は死んだ藤井樹(男性)を媒介にして繋がり、過去と現在が交錯する。渡辺博子からすれば、藤井樹(女性)が自分と似ているのは許し難いことだ。それは婚約者が彼女の面影を求めて自分を選んだことになるから。実際、藤井樹(女性)の回想では、2人の抜き差しならぬ関係が描かれている。藤井樹(男性)は、藤井樹(女性)の面影を求めて渡辺博子を選んだ。最後まで観るとそんな風に解釈できる。

回想パートは見事な青春ものになっていて、やはり制服は青春のシンボルだと思った。特に女子のセーラー服は尊い。登場人物がこれを着てるだけで雰囲気ががらりと変わる。回想パートでは藤井樹(男性)を柏原崇が、藤井樹(女性)を酒井美紀が演じている。特筆すべきは、酒井美紀のセーラー服姿だろう。これが天使みたいに可愛いくて目の保養になった。制服はアジア映画の武器なので、この文化は今後も廃れないでほしいと切に願う。

印象に残っているシーンは、中学時代の藤井樹(男性)と藤井樹(女性)が、宵闇のなか、自転車のライトを灯して英語の答案を見るシーン。その答案は2人のものが取り違えて返されたものだった。藤井樹(女性)が必死こいて手でペダルを回しているところが健気で可愛らしい。これぞ青春の一コマといった感じの絵になっている。

失われた時を求めて』【Amazon】を小道具に使うところはベタだったけれど、映画にはこういう分かりやすさが必要なのだろう。つまり、渡辺博子にとっても藤井樹(女性)にとっても、藤井樹(男性)との思い出は「失われた時」なのだ。2人はその「失われた時」を求めている。作中である人物が、「みんな忘れちゃうのね、死んだ人のことなんて」と言っていた。しかし、2人とも藤井樹(男性)のことを忘れてないので、彼は果報者である。

というわけで、しみじみとしたいい映画だった。特に酒井美紀のセーラー服姿は一見の価値がある。