海外文学読書録

書評と感想

ジェイソン・レナルズ『エレベーター』(2017)

★★★

15歳の少年ウィルが、目の前で兄を射殺されたため、ギャングの掟に従って犯人に復讐しようとする。兄のタンスから拳銃を持ち出したウィルは、部屋を出てエレベーターに乗り込む。場所は8階。1階降りていくごとに奇妙な人物が乗り込んできて……。

銃を持ったことはない。

 

手を

触れたことさえない。

 

予想より

重たい。

 

新生児

を抱いてるみたい。

 

だけど、ひとつ

だけわかりきってる。

 

こいつの

泣き声は、もっと、

 

もっと、もっと、

もっと、やかましい。(p.65)

横書きの散文詩みたいな小説で、タイポグラフィ的な要素も少しだけある。本書は全部で312ページあるけれど、前述のような形式なのですぐに読み終わった。アメリカではヤングアダルト文学賞を複数受賞してるらしい。確かに内容は少年向きだと思う。特にギャングに憧れている少年、あるいは既に所属している少年にはもろに刺さりそうだ。

日本に住んでいると、こういう少年ギャングの存在はピンと来ない。暴走族は衰退したし、半グレはもうちょい年上だ。ギャングなんて小説や映画でしか見かけない。本作を読んで驚いたのが古典的な復讐劇をしていることで、21世紀にもなってまだそんなことやってるんだ? と呆れてしまった。まあ、それだけアメリカの人種差別問題は根深いのだろう。日本と違って銃社会でもあるし。マフィアはFBIの取締強化によってオワコンになったが、ストリートギャングはまだまだ健在のようだ。

ウィルの父は伯父の復讐をしたせいで殺された。また、ウィルの兄は兄貴分の復讐をしたせいで殺された。月並みではあるけれど、復讐は連鎖するのだ。復讐したら相手の身内に復讐される。そして、その復讐をしたらまた別の身内に復讐される。永遠にこれの繰り返し。こんな不毛なことが起きるのも「掟」なんてものがあるからで、連鎖を止めるには掟を破る勇気が必要なのだろう。ラストの問いかけはウィルに対する試金石になっている。

ところで、最近読んだ『「いいね!」戦争』【Amazon】という本にこんなことが書いてあった。

「ギャングの抗争のほとんどは、ドラッグの売買や縄張りとは無関係で、どれも個人的な恨みを晴らすことと関係がある」(……)「ソーシャルメディア上での罵り合いだ」(pp.25-26)

これを小学生みたいだと切り捨てることも可能ではある。しかし、我々は言葉の力にもっと自覚的になるべきだ。言葉は人を傷つける。そして、傷つけられた者は物理的にこちらを傷つけてくる。昨年、Hagexというネットウォッチャー低能先生という男に刺殺された。低能先生はてなブックマーク上で色々な人たちから言葉によって傷つけられていた。そして、その復讐心がたまたま住まいの近くに来たHagexに向いたのだった。ネット上でのやりとりが殺人にまで発展する。今の時代、他人を馬鹿にする際は殺される覚悟を持つべきだろう。