海外文学読書録

書評と感想

ナ・ホンジン『チェイサー』(2008/韓国)

チェイサー(字幕版)

チェイサー(字幕版)

  • キム・ユンソク
Amazon

★★★

元刑事のオム・ジュンホ(キム・ユンソク)はデリヘル店を経営しており、彼の店のデリヘル嬢が相次いで失踪する。手付金をせしめて逃亡したと思い込んだジュンホは捜索に乗り出す。一方、ジュンホは風邪で寝込んでいたキム・ミジン(ソ・ヨンヒ)を客に派遣。その客はチ・ヨンミン(ハ・ジョンウ)という名で、彼はデリヘル嬢を狙った連続殺人犯だった。

サイコスリラー。個人的にはあまり好きなジャンルではないけれど、助けたいのに助けられない、手が届きそうなのに届かない、そういう哀切さ感じられて良かった。

ヨンミンは早い段階で警察に身柄を拘束されるものの、取調べる連中が無能すぎて逮捕まで持っていけない。人を殺したと供述しているのに、証拠を掴めないでいる。本作はそんな警察の捜査と平行して、ジュンホの追跡が進行する。そして、両者は時に絡まりながら、決定的な瞬間に到達する。プロットははっきり言って杜撰で、警察の無能さとあり得ない偶然が目立つ。逮捕できないのは作劇の都合上仕方がないにしても、釈放後の尾行に面が割れてる刑事をつけるのはどうかと思ったし、通報を受けたのに現場に急行できなかったのは怠慢じゃないかと呆れた。さすがに現実の警察はここまで無能ではないだろう。あるいは、韓国だとこれが普通なのだろうか。ヨンミンが犯罪を隠蔽できている理由が、彼の有能さではなく警察の無能さによって成り立っているのが解せなかった。

ヨンミンの人物像も謎だ。人を殺す理由が分からないのはサイコパスだからいいとして、なぜ警察署であっさり殺人を自供したのか。有罪になったら死刑になる、だから最後まで白を切ろう、そういう発想はなかったのか。さらに、彼がどうやって生活費を稼いでいたのかも謎だ。取調べでは被疑者の身元を徹底的に洗うのが定石なのに、彼の職業や交友関係すら分からない。供述に信憑性があると警察は判断しているのだから、人員を投入して身元を入念に調べるのではないか。結局、分かっているのは彼の実家と、彼が前科者であることくらい。ここでも警察の無能さによってヨンミンの人物像が隠されている。

水槽の中に女の首が入っていて、それが観客を見つめている。こういう絵面はサイコスリラーの醍醐味かもしれない。さらに、ジュンホとヨンミンの格闘によって水槽が砕けた際には、床に倒れたジュンホと床に落ちた首が向かい合いになり、目と目が合っている。この構図も良かった。細かい部分はさておき、娯楽映画としてはまあまあだと思う。