海外文学読書録

書評と感想

ウェイ・ダーション『海角七号 君想う、国境の南』(2008/台湾)

★★★★

日本統治時代の台湾・恒春。日本人教師の男性が小島友子という台湾人の教え子と恋仲になっていたが、敗戦によって教師が内地に引き揚げる。60年後。台北でミュージシャンを目指していたアガ(ファン・イーチェン)が、故郷の恒春に戻ってきた。彼は郵便配達の仕事を斡旋され、偶然にも日本人教師の手紙を手に入れる。それは日本統治時代の「海角七号」宛てだった。一方、町のリゾートホテルでは中孝介を招いてのビーチコンサートが予定され、日本人通訳の友子(田中千絵)がその仕事に携わることになる。

本作は同じ監督の『セデック・バレ』と見比べると面白い。というのも、台湾人が日本人を表象する際、高圧的な日本鬼子だったり、敗戦国の悲哀あふれる姿だったり、捉え方が様々であることを思い知らされるのだ。台湾人にとって日本統治時代は何だったのだろう? おそらくひとことでは言い表せない複雑な感情があるはずで、この監督の問題意識は個人的にかなり興味深い。我々日本人は台湾を親日国だと思っているけれど、あれは対岸の中国が虎視眈々と領土を狙っているからこその関係だろう。そういった国際政治の絡みを取り除いたらどうなるのか、純粋に知りたいと思っている。

登場人物が中国語と台湾語と日本語を話している。この辺の言語の複雑さは『冬将軍が来た夏』でも見られたけど、個人的には中国語と台湾語をどういう基準で使い分けているのかいまいち判然としなかった。日本人通訳の友子は中国語しか分からないという設定で、台湾語で話されると理解できない。つまり、それだけ中国語と台湾語はかけ離れている。また、老人が日本語を話せるのはそういう教育を受けた世代だからだけど、若い女性が日本語を話せるのは謎だった。あれは個人的に学習したのだろうか? いずれにせよ、こういった言語の問題は台湾を知るうえで欠かせない要素だと思う。

ダーダー役の楊蕎安(マイズ)が印象に残っている。彼女はバンドでキーボードを担当する小学生で、その立ち居振る舞いがただ者じゃなかった。将来有望な大物子役という感じがする。それと、髪の毛を赤く染めたドラマーに対し、老人が「スラムダンクかよ」とツッコんでいるのには驚いた。中国で『スラムダンク』【Amazon】がブームになっていたのは知っていたけれど、まさか台湾でもそうだったのだろうか。しかも、老人が知っているくらいに。サブカルチャーの伝播力は侮れないと思った。

ところで、教師と生徒の恋愛って昔だったらロマンティックなのだろうけど、今だったら周囲からロリコン扱いされるので、時の流れは世知辛い。