海外文学読書録

書評と感想

パク・チャヌク『オールド・ボーイ』(2003/韓国)

★★★★★

平凡なサラリーマンだったオ・デス(チェ・ミンシク)が、娘へのプレゼントを買った帰り、何者かに拉致される。気がつくとどこかのマンションの一室だった。オ・デスはそこで15年間監禁される。ビルの屋上で解放されたオ・デスは、自分が監禁された理由を解き明かすべく奔走する。

原作は土屋ガロン嶺岸信明の同名漫画【Amazon】。

『モンテ・クリスト伯』に捻りを加えたような復讐劇でとても面白かった。同書を読んでいると楽しみが増すと思う。いわゆる間テクスト性ってやつ。

「なぜ、15年も監禁されたのか?」というのが大きな謎になっていて、途中まではこれで引っ張っていく。オ・デスは謎の解明を目指しつつ、下手人に復讐を誓うのだった。これは極めて自然な感情だし、見ているほうも好奇心が刺激されて引き込まれる。だって、15年も監禁するなんて明らかに普通じゃないから。そこには大きくて強い何らかの意志を感じる。伊達や酔狂でこんなことはしないだろう。だから物語が進んでその構図が反転するところは衝撃的だったし、なるほどこれは『モンテ・クリスト伯』を踏まえているのだなと納得した。つまり、物語がオ・デスの復讐劇だとあまりに単純なのだ。下手人を見つけて暴力で報復して終わるから。そこを手の込んだ復讐劇にスライドさせるところが本作の巧妙なところで、「なぜ、15年も監禁されたのか?」から「なぜ、解放したのか?」に謎が変化する瞬間は鳥肌ものだった。

本作には復讐の爽快感はなく、むしろ悲しみが残るようになっている。こういうやむにやまれぬ動機があったから、このような手の込んだ復讐劇になったのだ、みたいになっている。ただ暴力で屈服させただけでは復讐にならない。自分と同じ目に遭わせて初めて願いが成就される。こういう「思い知らせてやる!」という感情が復讐劇にとっては重要で、だから『モンテ・クリスト伯』もあんなに面白かったわけだ。本作はその図式を捻った形で取り入れていて、やはり同書を読んでいると楽しみが増すと思う。『モンテ・クリスト伯』が好きな人は本作も好きになるはずだ。

絵的に面白かったのが、マンションの廊下でのアクションシーン。テレビゲームみたいなサイドビューで1対多数の格闘戦を映していて、各人の動きが一望できるところが良かった。ボコられながらもボコる。その妙味が俯瞰的な視点で味わえる。