海外文学読書録

書評と感想

ブライアン・シンガー『ユージュアル・サスペクツ』(1995/米)

★★★

カリフォルニア州。港に停泊していた密輸船が爆発して、どさくさにキートンという男が何者かに射殺される。その6週間前、面通しのためニューヨークの警察署に5人のユージュアル・サスペクツが集められた。釈放後、彼らは結託して犯罪に手を染め、謎のギャング「カイザー・ソゼ」に翻弄される。

映画で「信頼できない語り手」をやるとこうなるのか、という意味で興味深かった。この仕掛けにはいまいち納得いかないものの、犯罪ものとして最後まで退屈せずに観れたので印象は悪くない。カイザー・ソゼについては、観客の興味を引っ張る手段として割り切れば、そう腹は立たないのではないか。エンターテイメントでもっとも重要なのは、とにかく最後まで席を立たせないことである。1時間40分の暇つぶし。そういう意味では優れた映画だと言える。

カイザー・ソゼはその逸話がまことしやかに語られるものの、正体はまったくもって謎、それどころか実在してるのかどうかも疑われる伝説のギャングだ。唯一の手掛かりは、日系人のコバヤシ弁護士しかいない。彼が5人のユージュアル・サスペクツにカイザー・ソゼの指令を伝えてくる。この状況がまるで『ジョジョの奇妙な冒険』の第5部【Amazon】みたいで、同作のファンとしてはなかなかそそるものがあった。つまり、カイザー・ソゼは『ジョジョ』で言うところのディアボロである。ディアボロはイタリアのギャング組織パッショーネのボスで、その正体を知るものはいない。人前には姿を現さないし、自身の過去も入念に消してきた。部下への指令も間接的に伝えてくる。なぜ、そんな回りくどいことをしているのかと言えば、暗殺されないようにするためである。身を守るために姿を隠している。この過剰なまでの用心深さがスリリングで、今はアル・カポネの時代じゃないんだなと感慨深くなる。肩で風を切って歩くような不良は三流なのだ。カイザー・ソゼにディアボロ、実に魅力的なギャングである。

本作で笑ったのが、コバヤシ弁護士のオフィスが映るシーン。なぜかプレートに「小林弁護士」と漢字で表記されているのが可笑しかった。アメリカなんだから普通はアルファベットで表記しないか? しかも、コバヤシ弁護士は見た目がもろにアングロ・サクソン系で、仮に日系人だとしてもせいぜい3世くらいだろう。日本語は喋れないのではないか? その辺のギャップがツボにはまって思わず吹き出してしまった。