海外文学読書録

書評と感想

クァク・ジェヨン『猟奇的な彼女』(2001/韓国)

猟奇的な彼女 (字幕版)

猟奇的な彼女 (字幕版)

  • チョン・ジヒョ
Amazon

★★

兵役を終えて復学した大学生のキョヌ(チャ・テヒョン)が、駅のホームから落ちそうになっていた「彼女」(チョン・ジヒョン)を助ける。「彼女」は酔っ払っていた。その後、成り行きから「彼女」を介抱することになり、それが縁で交際にまで発展していく。「彼女」はDV体質で、何かとキョヌに暴力を振るうのだった。

ブコメ。『電車男』【Amazon】みたいなノリだと思ってたら、どうやらネット小説が原作みたいで、こういうのは日本も韓国も変わらないのだなと思った。男性が男性性に縛られていない、つまり、男性が過度に情けないところがこの手のドラマのお約束なのだろう*1。マチズモって男性にとってもきつい価値観なので、今はいい時代になったと思う。

『82年生まれ、キム・ジヨン』を読んだとき、韓国でも女性は生きづらさを抱えているのだなあ、と暗い気分になったけれど、この映画では女性が男性に公然と暴力を振るっていて意外に思った。さらに、「彼女」は電車のなかで若者に席を譲るよう注意したり、飲み屋の客に「援交するな!」と言い掛かりをつけたりしている。想像以上にフリーダムというか、僕の抱いていた韓国観が覆された。女性はもっと抑圧されているのだろうと思っていた。また、儒教倫理にも逆らっていて、「彼女」はキョヌより1歳年下にもかかわらず、キョヌに対しては出会ったときからタメ口をきいている*2。しかも、「殺すぞ」や「死にたいの?」みたいな暴言まで浴びせているのだから凄まじい。この女性像って、当時としてはかなり斬新だったのではないか? 文脈が分からないのであくまで想像だけど、本作はこの女性像が韓国社会にウケたのだと思う。

コメディ部分は破滅的につまらなくて、唯一面白かったのが、電車のなかで兵隊が行進するシーン。その少し前に、夜の遊園地で脱走兵が立て籠もるシーンもあって、韓国では軍人を笑い者にしていいのかと驚いたのだった。たとえば、日本だったら自衛隊をこういう風には使えないだろう。これは徴兵制と志願制の違いなのか、あるいは社会の風通しの問題なのか。いずれにせよ、日韓の違いが浮き彫りになっていて面白い。

コメディからシリアスに切り替わる瞬間が感動のピークで、それ以降は間延びしていて蛇足に感じた。もっと短い時間で畳めたのではと思う。それと、「彼女」がDVをする理由がまるで漫画みたいで、あまり説得力を感じなかった。

恋愛を扱っているのにキスひとつしないところは特筆すべきかもしれない。

*1:余談だが、本作のキョヌは7歳まで女の子として育てられた。

*2:一方、キョヌは「彼女」の父と酒を飲む際、横を向いて飲んでいる。つまり、儒教倫理に従っている。