海外文学読書録

書評と感想

ポール・キング『パディントン』(2014/英=仏)

★★★

ペルーにやってきたイギリス人探検家が、クマの夫婦と意気投合して帰国する。数十年後、大地震によって夫が死に、妻は老クマホームに入ることになった。甥の小グマ(ベン・ウィショー)はそれを機にロンドンへ密航。駅で知り合ったブラウン家の人にパディントンと名づけられ、彼らの家に滞在することになる。

ピクサー映画よりは一段落ちるものの、それでも上質なファミリー映画だと思う。ヨーロッパのわりには頑張っているのではないか。

個人的には、この世で一番可愛いクマはリラックマAmazon】で、二番目はくまモンAmazon】だと思っている。パディントンAmazon】はこれらに比べると造形がリアルすぎてきつい。油断してたらこちらに襲いかかってきそうな顔つきをしている。獣の本能が剥き出しになっているというか。その点、リラックマくまモンはデフォルメが効いていて、マスコットとはかくあるべしという見本になっている。Netflixで配信された『リラックマとカオルさん』は可愛さの極地だった。

本作のいいところは、ペルーを未開の地として堂々と描き、そのうえ「暗黒の地ペルー」と作中人物に何度も言わせてるところ。PCに毒されていないところが素晴らしい。これがピクサー映画だったら間違いなく改変されてるはずなので、この反骨精神には拍手を送りたくなった。表現の自由が封殺されている昨今、本作みたいな挑戦的な作風は貴重だ。僕も表現者の端くれとして励まされた気分である。

本作にはロンドンの観光映画的な側面もあって、実物よりも綺麗な町並みは異国情緒があってとても良かった。赤い二階建てバスや近衛兵といったお決まりのトレードマークにはわくわくしたし、活劇の舞台となる自然史博物館は巨大建築らしく壮観だった。この映画の一番の魅力は美しい映像である。ストーリーやキャラクターは二の次。そういう意味では、映画らしい映画とも言える。

ブラウン家の長女が将来のために中国語を勉強している。このエピソードに時代を感じた。現代社会でビジネスをするなら中国語は必須なのだろう。最近は「一帯一路」という言葉が流行っているし。それと、「ロンドンは変わり者だらけ。だから誰でも溶けこめる」というメッセージは、移民排斥の風潮が強い今だからこそ重要である。パディントンもペルーからの移民なわけだし。そう考えると、本作は意外とPCな映画だ。