海外文学読書録

書評と感想

イーサン・コーエン、ジョエル・コーエン『トゥルー・グリット』(2010/米)

トゥルー・グリット (字幕版)

トゥルー・グリット (字幕版)

  • ジェフ・ブリッジス
Amazon

★★

オクラホマ州フォートスミス。14歳の少女マティ(ヘイリー・スタインフェルド)が、父を殺して馬と金貨を奪ったチェイニー(ジョシュ・ブローリン)に復讐すべく、隻眼の連邦保安官コグバーン(ジェフ・ブリッジズ)を雇う。さらに、テキサスレンジャーのラビーフマット・デイモン)も加わり、3人でチェイニーの逃亡先である先住民居留区へ向かうのだった。

勇気ある追跡』【Amazon】のリメイク。

映像が綺麗すぎてまるで西部劇のコスプレを観ているようだった。昔の西部劇にあったような時代性が伝わってこない。厳密に言えば、その西部劇もコスプレにすぎないのだけど、あれは画質が粗かったからもっともらしく見えた。モノクロでもカラーでも、昔の西部劇は粗い映像が時代性を醸し出している。同様の問題は日本の時代劇にもあって、たとえばNHK大河ドラマは見ていてリアリティを感じない。映像が綺麗すぎて、金のかかった学芸会を見せられているような気分になる。俳優も綺麗すぎるし、セットも綺麗すぎるのだ。もう昔みたいな味のある時代劇は作れないのだろう。その事実を突きつけられて寂しくなった。

ただ、景観は抜群に良くて、荒野や森林、岩山など、冬の大自然を惜しみなく映している。これは画質の勝利であり、昔の西部劇では敵わない要素だ。テクノロジーの発展によって、失ったものもあれば、新たに得たものもある。この景観は目の保養になった。

仇を殺して大団円かと思いきや、そこから重いエピローグへ向かうのは意外だった。振り返ってみると、これはマティの成長譚でもあったわけだ。最初出てきたときは、14歳なのに理路整然と喋っていて、大人とも互角に渡り合っている。まるで言葉こそが武器であるかのように、時には辛辣な皮肉を言ってみせる。「契約」に代表される法の支配を信じているところも特徴的だ。ただ、町ではそれで良かったものの、荒野に出たらその言葉も無力であることが分かってしまう。契約では人を縛れないことも分かってしまう。マティは困難な旅を通して成長し、大人になってからはすっかり寡黙になっている。マティとコグバーンの関係が、契約ではなく絆によって深まるのが良かった。

西部劇らしい見せ場は、コグバーンが馬に乗りながら1対4で敵と撃ち合うシーンだろう。そこではラビーフによる350mの狙撃もある。ほとんどの時間は退屈だったけれど、コスプレはコスプレなりに頑張っていたと思う。たぶん、現代で西部劇をやってもこれが限界で、我々はおとなしく昔の映画を観るしかないのだ。悲しいことに。