海外文学読書録

書評と感想

ジョン・カーニー『はじまりのうた BEGIN AGAIN』(2013/米)

★★★

音楽プロデューサーのダン(マーク・ラファロ)は、会社をクビにされてライブバーで酒を飲んでいた。一方、シンガーソングライターのグレタ(キーラ・ナイトレイ)も、交際していた売れっ子ミュージシャンのデイヴに浮気されてライブバーに来ている。知人に誘われたグレタは、ステージに上がって弾き語りをすることに。それを見たダンは、グレタにプロデビューを持ちかける。

僕は基本的に音楽を題材にした映画が好きで、それはなぜかというと、演奏される楽曲に訴求力があるからだ。散々腐した『ボヘミアン・ラプソディ』も、楽曲だけは評価して星を上乗せしてるし。もちろん、ミュージカル映画も好きで、『雨に唄えば』【Amazon】や『サウンド・オブ・ミュージック』は言わずもがな、玄人筋に受けの悪い『ラ・ラ・ランド』だって気に入っている。ノーミュージックノーライフ。本を読まない人はいても、音楽を聴かない人はまずいない。音楽は人生におけるマストアイテムである。

本作は色々な楽曲が演奏されるけれど、やはりアコースティックギターで奏でられる曲が素晴らしい。たとえば、ピアノを伴奏にした弾き語り。静謐なバラードが心に響く。個人的にこういうのって楽器は少なければ少ないほどいいと思っていて、だからレコーディングのときにヴァイオリンやチェロが加わり、ドラムがボカスカ叩いているのは耐え難かった。いくら何でもポップにしすぎではないか。ライブバーでの弾き語りくらいがちょうどいい編成だろうに。なぜ、業界の人間は余計な音を加えてしまうのだろう? 自分の好きな曲と世間で売れる曲に決定的な差異があると分かって、少し落ち込んでしまった。

アルバム作りを通して、ダンとグレタの間に特別な感情が芽生えている。別れを惜しむような感情というか。一緒に何かを成し遂げた者ならではの一体感があって、人によってはそこから恋愛に発展するのだろう。世の売れっ子ミュージシャンはこれが病みつきになっているから、金に困ってなくても仕事をするわけだ。僕みたいに個人で仕事をしている人間には味わえない感情なので、これは素直に羨ましいと思った。

それにしても、アメリカの映画って夫婦のどちらかが浮気をして関係が破綻してるというパターンが多い。アメリカ人ってそんなに貞操観念がガバガバなのだろうか。結婚したら愛は諦めるものだと思ってたよ。当然、セックスも。アメリカ人は欲望に忠実すぎる。