海外文学読書録

書評と感想

ダニー・ボイル『トレインスポッティング』(1996/英)

★★★

スコットランド。ヘロイン中毒のレントン(ユアン・マクレガー)は、スパッド(ユエン・ブレムナー)やシックボーイ(ジョニー・リー・ミラー)といったヤク中仲間たちと刹那的な青春を送っていた。その中にはベグビー(ロバート・カーライル)という髭面のアル中男がおり、彼はクスリはやらないものの、喧嘩好きで仲間内の不安要素になっている。レントンは何度目かの禁ヤクに挑戦するが……。

原作はアーヴィン・ウェルシュの同名小説【Amazon】。

底辺の人生は最高のコンテンツだ。自分と全然違うからこそ面白い。ヤク中の人間なんて僕の身近にいないから。せいぜいネットやテレビといった画面の向こう側でしか見かけない。日本ではいま若年層の間で大麻が流行しているそうだし、Twitterでは毎日のようにブロンのODツイートが流れている。けれども、リアルで本当にそんなことが起きているのか、いまいち実感がないのだ。お前らマジでそんなバカなことしてるの? みたいな。頭では実際にしているのだろうと理解している。都内で集まってラリパしたり、未成年に酒を飲ませて淫行に及んだり、あっぱらぱーな青春を謳歌しているのだろう。でも、それはどこか遠い世界の出来事であり、彼らが自分と同じ空気を吸っているようには思えない。ネットでイキっているヤク中たちに血肉を感じないでいる。そして、血肉を感じないからこそ、彼らの痛みや苦しみをコンテンツとして消費できている。要するに、「折れた足をいじられると彼は痛いが…わしは痛まない…!」ってやつだ*1。現代ではそういったリアルタイムドキュメントがそこかしこに溢れている。

原作を読んでもっとも印象的だったのが、便器に落ちたアヘンの座薬を手を突っ込んで拾うシーン。のっけからすごいことをやっていると驚いたが、映画もまた負けず劣らずのインパクトだった。というのも、予想以上にトイレが汚かったのである。まるでヨハネスブルグの公衆便所のような汚さ。それはもう今まで見てきたトイレのなかで最悪の部類だった。映画では便器のなかにレントンの体が丸ごと入っていく。映像で見るとこれがなかなかシュールで感動的である。

スピードをキメて会社の面接に臨むスパッドもいい。明らかにテンションが普通じゃなくて、挙動不審な言動を矢継ぎ早に繰り出している。きっと実際のヤク中もこんな感じなのだろう。スパッドは平常時もラリってるような顔をしていて、これはキャスティングの妙だと思う。

ダイアンの制服姿が可愛かった。どうやら女子中学生という設定らしい。演じているのはケリー・マクドナルド。彼女は当時20歳だったのだから驚きだ。正直、女子中学生と言われても違和感がない。合法ロリは本当にいたのだと感激した。

それにしても、終盤の展開は身につまされた。不良がまともな人生を歩むと仲間に寄生される。彼らから解放されるには、金を持って失踪するしかない。日本でもマイルドヤンキーはこういう部分で苦労しているのだろう。付き合う人間は選ばないといつまで経っても浮上できない。上に行こうとすると足を引っ張られる。これぞ人生の真理である。

*1:『賭博黙示録カイジ』【Amazon】に登場する兵藤会長のセリフ。