海外文学読書録

書評と感想

ジョン・フォード『三人の名付親』(1948/米)

三人の名付親(字幕版)

三人の名付親(字幕版)

  • ジョン・ウエイン
Amazon

★★★★

銀行に押し入ったボブ(ジョン・ウェイン)、ピート(ペドロ・アルメンダリス)、キッド(ハリー・ケリーJr.)の3人が、馬に乗って砂漠に逃亡する。保安官(ワード・ボンド)の銃撃によって水を失った3人は、水場を求めて彷徨うのだった。そうこうしているうちに打ち捨てられた幌馬車を発見。馬車には産気づいた女が乗っており、出産後は彼女から赤ん坊を託される。

東京ゴッドファーザーズ』【Amazon】の元ネタ。

ジョン・フォード監督、ジョン・ウェイン主演の映画だけど、色々な意味で意外性があった。

まずはこれがクリスマス・ストーリーであること。物語は東方の三博士をモチーフにしており、かなり宗教色が強い。イエスに見立てた赤ん坊は当然として、乳香・没薬・黄金の3要素も出てくる(没薬をグリースで代用しているのが面白かった)。もちろん、聖書も重要な役割を果たしていて、彼らはお告げに従ってニュー・エルサレムへ向かうのだ。まさか西部劇でこんなクリスマス・ストーリーが展開するとは思わなかったので、このジャンルの多様性に拍手を送りたくなった。

もうひとつ意外だったのが、ジョン・ウェインの役柄だ。ジョン・ウェインに西部劇と言ったら、やはりガン・アクションは欠かせないと思うのだけど、本作の彼は一度も銃を撃たない。砂漠での逃亡中は当然として、酒場で保安官から早撃ちを要求されたときも、結局は撃たずに終わっている。そもそも、ならず者の3人が銃を撃ったのって、銀行から逃げる際にピートが脅かしで撃ったくらいだった。ここまでガン・アクションがない西部劇も珍しいのではなかろうか。しかも、ジョン・ウェイン主演で。このジャンルの多様性に拍手を送りたくなった。

スイート家の前でもてなしを受ける冒頭が最高で、ここで示されたエッセンスが各所に散りばめれているところがいい。たとえば、スイートという名字で愉快に笑ったボブが、終盤になってママデュークというミドルネームで笑われるこの対称性ときたらもう。それに赤ん坊の名前も、3人の名前を繋げたもので笑いを誘う*1。そもそも、これから銀行強盗をやろうという3人が、のんきに談笑しているところからして微笑ましいのだ。およそならず者とは思えないいい人感が出ている。

砂漠で倒れて瀕死になっているキッドに対し、体で太陽光を遮って影を作ってやるボブ。こういうささやかな気遣いが印象に残る。

*1:ロバート・ウィリアム・ペドロと名付けられている。