海外文学読書録

書評と感想

フレッド・ジンネマン『山河遥かなり』(1948/スイス=米)

山河遥かなり(字幕版)

山河遥かなり(字幕版)

  • イワン・ヤンドル
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★★★

ナチス・ドイツの収容所から解放された少年少女たちが、アメリカ軍の保安部隊によって食料と寝床を与えられる。ある日、チェコのユダヤ人ハンナ(エイリーン・マクマホン)が息子カレル(イヴァン・ヤンドル)を引き取りにやってくるも、彼女の前に出てきたのは息子の名を騙る別人だった。それと同じ頃、本物のカレルは施設を脱走し、アメリカ軍兵士のスティーブ(モンゴメリー・クリフト)に保護される。

途中からGIと子供の友情物語になるのは意外だった。日本と同様、ドイツでもGIは解放者だったらしい。少なくともそういうイメージで表象されている。周知の通り、戦後の日本では、子供たちが「ギブ・ミー・チョコレート」と言ってGIからお菓子を貰っていた。僕の知り限り、GIと子供の関係は悪くなかった。身も蓋もない言い方をすれば、施しによって懐柔されていた。本作は収容所から解放された子供たちに焦点を当てているため、日本とはだいぶ事情が異なるものの、ドイツでも解放者としてのイメージを作り上げている。この辺の戦略は「へー」という感じだった。

本作を見て驚いたのが、言語の違いを明瞭にしているところだ。大人たちが英語を話すのに対し、子供たちはチェコ語やポーランド語といった外国語を話している。お互いに相手が何を言ってるのか分からない。だから両者は通訳を介してコミュニケーションを図っている。面白いのは、子供たちの言ってることが観客にもさっぱり分からないところだ。彼らのセリフには字幕がついてない。言葉の通じない他者としてスクリーンに映し出されている。この演出がGIを警戒する態度と相俟って相互理解の困難さを浮き彫りにしている。

それにしても、英語がグローバル言語であることをここまで押し出したのはなかなかすごい。スティーブはカレルのことをアメリカ風にジムと名づけ、英語を教えることでつつがなくやりとりしている。英語さえできれば世界中の人たちと交流できる。だからマイナー言語の民は英語を覚えたほうが得だ。本作はそういうメッセージを発している。正直、これにはぐうの音も出なかった。日本で文科省が英語教育に必死なのも英語が世界的に強い言語だからだし。覚えないとグローバル社会に置いていかれてしまう。チェコ語やポーランド語、日本語などでは世界に通用しないのだ。本作を見てマイナー言語の悲しみを味わった。

ちなみに、原題はThe Searchである。ハリウッド映画のタイトルはそっけないことが多いが、本作もその類だった。邦題で大胆に改変したのも仕方がない。やはりイメージを喚起するタイトル設定は重要だろう。天下のハリウッドがこのことに無頓着なのが解せない。おそらくそっけないタイトルでも客が入っているのだろう。原題と邦題を比較するたびに文化の違いを目の当たりにする。