海外文学読書録

書評と感想

マイク・ニコルズ『心の旅』(1991/米)

★★

辣腕弁護士のヘンリー(ハリソン・フォード)は、持ち前の強引な仕事ぶりで依頼人を勝訴に導く。ある日、タバコを買いに店に入った彼は、強盗に銃で撃たれて病院に搬送された。奇跡的に命は助かったものの、後遺症で記憶喪失になってしまう。妻(アネット・ベニング)と娘(ミッキー・アレン)のことも思い出せない。懸命にリハビリをしたのち、我が家に帰るが……。

いわゆる「生まれ変わり」を描いた映画。ヘンリーが不実な過去を精算して家族と新たな人生を歩む。

と、そういういい話なのだけど、主演のハリソン・フォードが明らかにミスキャストで、観ていて違和感ありまくりだった。記憶を失う前の辣腕弁護士のときははまり役だったのに、記憶喪失になってからは「これじゃない感」がすごい。はっきり言って、彼は障害者を演じるには力不足だと思う。脇を固める俳優たちは特に問題がなく、映画の中でこの人だけが浮いている。

とはいえ、映画として優れた部分はちらほらあって、たとえば、ヘンリーの描いたリッツ【Amazon】の絵が、終盤でリッツ・カールトンに繋がるところは目の覚める思いだった。まさかこういうヒューマンドラマで粋な仕掛けを入れてくるとは予想外だったので。実を言うと、お菓子メーカーがスポンサーにいるから強引にリッツをねじ込んでいるのだろう、と勘繰っていた。この部分は見事と言うしかない。

リハビリトレーナーの人物像も良かった。彼は体育会系の黒人。いかにもアメリカ人って感じのフランクな性格をしていて、そのいかついガタイとは裏腹に親しみやすさがあった。ああいう人が職場にいると楽しく仕事ができそうだなと思う。いささかステレオタイプな造形だとしても、その善男ぶりには好感が持てる。

劇中にゲームボーイウォークマンが出てくるところに時代を感じる。この頃はまだ日本の製品に活気があった。それと、弁護士事務所に何人か日本人が訪問していて、彼らがお辞儀をしていたのが気になる。当時の日本はぎりぎりバブル景気だったから、大方アメリカの企業でも買い叩きに来たのだろう。そんなサイドストーリーを想像してしまう。

それにしても、ヘンリーは弁護士を辞めてどうやって食っていくのだろう? 自分一人ならまだしも、妻子を養うには相応の仕事に就く必要がある。記憶喪失の彼に果たして可能なのか? そのことが気がかりであのエンディングは乗れなかった。