海外文学読書録

書評と感想

フランク・マーシャル『生きてこそ』(1993/米)

生きてこそ (字幕版)

生きてこそ (字幕版)

  • イーサン・ホーク
Amazon

★★★

1972年10月。ウルグアイ空軍チャーター機がアンデス山脈に墜落する。乗員は学生ラグビーの選手たちを含めた45名。墜落した時点で生き残ったのは27名だった。彼らは雪が積もった厳寒の地で救助が来るのを待つ。そして、そうこうしているうちに食料が尽きて……。

実際に起きた事故を題材にした映画で、原作はピアズ・ポール・リード『生存者―アンデス山中の70日』【Amazon】。

雪で覆われた山中にポツンと飛行機の胴体が置かれていて、周りに人が群がっている。この絵面を見て『飛べ!フェニックス』【Amazon】を思い出した。というのも、こちらは砂漠のなかにポツンと飛行機が置かれているのだ。残骸ではなく完全体だけど。ただ、絶望的な状況であることには変わりがなくて、どちらも孤立無援のなかで人々が足掻く様子を描いている。山とか海とか砂漠とか、人里離れた大自然においては人間って無力なわけで、地球は恐ろしいなあと思った。何もしてないのに牙を剥いている。

実話をベースにした本作だけど、たとえ同じ話でも、本で知るより映画で知るほうが真に迫ることが多々あって、本作もその類と言えそう。やはり映像で目の前に突きつけられるとすごみを感じる。墜落の最中に機体がバラバラになって乗員が外にふっ飛ばされるところとか、雪上を歩行中に足元が崩れて崖が出現するところとか。ひと目見ただけで、これはやばいって思える。

この事故では人肉食が物議を醸したそうだけど、『野火』【Amazon】を経験している日本人にとっては、何を今更という感じではなかろうか。我々は生きるために動物の肉を食べているのだから、当然、場合によっては生きるために人間を食べることだってある。歴史的にも、飢饉が起きたときに同胞を食べたという例は多い。問題は宗教――本作の場合はキリスト教――を信じていることで、これのせいで人肉食のハードルが上がっている。僕は無宗教なので、この辺の機微はちょっと分からないかな。ただ、キリスト教って聖体拝領があるから、意外と抵抗は少ないかもしれない。だって、ブドウ酒とパンはそれぞれキリストの血と肉だもんね。擬似的に人肉食をしているから、感情的には抵抗があっても、理論的には納得することができる。

終盤の雪崩は創作だろうと高をくくっていたら、本当にあったことでびっくりした。まさに踏んだり蹴ったりじゃないか。あと、彼らが救助を呼べたのは、遠征した2人が体力のあるラグビー選手だったからで、たとえば僕みたいなもやしっ子ばかりだったら、何もできずに全滅しただろう。そう考えると、遭難したのが体育会系の集団だったのは、不幸中の幸いだったかもしれない。

なお、同じ事故を題材にした映画『アンデスの聖餐』(ソフト化はされてないようだ)では、マリオ・バルガス=リョサが脚本を書いている。機会があったらこちらも観てみたい。