海外文学読書録

書評と感想

ジョエル・コーエン『ファーゴ』(1996/米)

★★★

義父の自動車販売店で営業部長をしているジェリー(ウィリアム・H・メイシー)には金が入り用だった。彼は知人の伝手で2人組の犯罪者と会い、妻の誘拐を依頼する。義父に身代金を出させてそれを分け合おうという算段だった。計画は上手くいくかに思えたが、犯罪者が警官と目撃者を射殺してから事態は一変する。

金と暴力とセックスの三拍子が揃ってるわりに思ったよりも地味というか、「This is a true story」という文句を忠実に再現したような映画だった(本作はまったくの創作で、この文句はお遊びである)。つまらなくはないけど、個人的にはもう少し見せ場がほしかったと思う。だって一番の見せ場が、木材破砕機で死体処理してる場面なんだもん。絵面としては強烈だったものの、「もう犯罪が露見してるんだから別に処理する必要なくね?」と突っ込んでしまった。あの状況ならさっさとカナダに逃亡するしかなかったわけで。あと、終盤で女署長(フランシス・マクドーマンド)が訓話じみたことを言うのも興醒めで、映画にモラルなんぞ求めてたまるかって毒づいた。

こういう映画を観るたびに、「どうすれば完全犯罪は可能だったか?」と考えてしまう。ミステリ読みの悪い癖だ。本作の場合、誘拐犯の2人組がディーラーナンバーで公道を走ったのがすべての始まりなので、先にナンバープレートを調達して付け替えておくべきだった。そもそも、この2人組って犯罪者としてはどこか素人っぽい。これが日本のやくざだったら、誘拐も手際よく行っただろう。ターゲットが通りを歩いているところを無理やりバンに押し込んで終了。それを本作ではわざわざ家に押し入っていて、さすがに下策ではないかと思った。

僕がなぜハリウッドの犯罪映画を観るのかといったら、アメリカは銃社会で日常的に人を撃っているからだ。警官も犯罪者も、そして一般人も銃を持っている。だから人を射殺するのにリアリティを感じるのだ。これが日本だったらファンタジーになってしまうので、やはり舞台がどこであるかは重要だと思う。銃がらみのシーンでとりわけ良かったのが、ジェリーの義父が身代金を渡しに犯罪者と対峙するところ。結果的には射殺されてしまうものの、銃を持って問題解決を図ろうとする姿勢にアメリカらしさを感じた。アメリカって西部開拓時代から自警団的な意識が強く、だから未だに銃社会なのだけど、このシーンはそれを見事に象徴している。日本人の僕にとっては刺激的だ。

本作は一般人の目撃証言が面白かった。犯罪者コンビの片割れをスティーヴ・ブシェミが演じてるのだけど、2人いる目撃者がどちらも彼のことを「ヘンな顔」と証言している。確かにヘンな顔であることは間違いないし、それ意外の特徴が見当たらないので、これには苦笑するしかなかった。僕が目撃者でも同じ証言をしていただろう。こういう配役上の遊びが楽しい。