海外文学読書録

書評と感想

スタンリー・キューブリック『ロリータ』(1962/英)

ロリータ (字幕版)

ロリータ (字幕版)

  • ジェームズ・メイスン
Amazon

★★★

パリからアメリカにやってきた文学者ハンバート(ジェームズ・メイソン)は、大学での講義の前に保養地で夏を過ごすことに。シャーロット・ヘイズ未亡人(シェリー・ウィンターズ)の一軒家を訪ねた彼は、そこの娘ロリータ(スー・リオン)に一目惚れするのだった。ハンバートは成り行きからシャーロットと結婚し……。

映画版は原作【Amazon】にあったアナベル・リーのくだりをすっ飛ばしてるので、なぜハンバートがロリータに執着してるのかいまいち分からなかった。ロリータ役のスー・リオンも、そこそこ美人とはいえニンフェットって感じがしないし。ともあれ、本作は恋する人間の愚かさを冷めた目で捉えていて、人間ってどうしようもない生き物よなあ、と嘆息しながら観た。

シャーロットはハンバートに恋をし、ハンバートはロリータに恋をし、ロリータはクィルティ(ピーター・セラーズ)に恋をする。本作では3人の男女が盲目的な恋をするのだけど、どれも片思いで心が通じない。一方通行の虚しい関係に終始している。それにしても酷いのが、シャーロットもハンバートもロリータを縛ろうとしているところで、前者はロリータが嫌いがゆえに彼女の行動を制限し、後者はロリータが好きがゆえに同様のことをしている。高校生のロリータにはまだ大人の庇護が必要なので、2人の言うことには逆らえない。悪意にせよ好意にせよ、こんなに感情をぶつけられるのはさすがにきつく、見ていて同情することしきりだった。対等な関係ではなく、明確な上下関係でこれをやられてるから。だからシャーロットが事故死した場面、さらにロリータがハンバートを出し抜いた場面では、胸をすくような爽快感がある。

映画ではハンバートとロリータがセックスしたかどうか分からない。2人の濡れ場はまったく描かれてない。けれども、終盤で「これはかつて肉体関係があったな」と察せられるやりとりがあったので、さすがにハンバートもやることはやってるよなあと納得した。濡れ場がないのはハリウッドの自主規制コードによるものらしい。カトリック教会による抗議もあったとか。こういう映画でエロを省くのは好ましくないので、PCなんて滅べばいいと思う。

本作でもっとも素晴らしかったのが冒頭で、ハンバートとクィルティのやりとりが最高だった。ピーター・セラーズ演じるクィルティの怪人物ぶりがすごい。残りのドラマは、この冒頭がいかに傑出しているのかを確認するためのものだった。特にクィルティがハンバートを相手に卓球しようと一人相撲するところがたまらない。この冒頭だけは原作よりも優れていて、スタンリー・キューブリックの面目躍如といった感がある。