海外文学読書録

書評と感想

マリー・ンディアイ『三人の逞しい女』(2009)

三人の逞しい女

三人の逞しい女

 

★★★

(1) 弁護士のノラが年老いた父の元を訪れる。ノラは父から母親共々捨てられており、弟と離れ離れになっていた。さらに、ノラは自分の家にとある父娘を迎えたことで人生が台無しになりかけている。(2) キッチンセールスマンのルディは、妻のファンタとの仲が冷え切っていた。ファンタはルディの雇い主といい関係にあるという。ルディとファンタは元高校教師だった。(3) 夫を亡くしたカディは義父母の元に身を寄せるも、間もなく追い出される。カディはいとこのファンタのいるフランスへ向かう。

わたしはなんて孤独なんだろう!

なんて愚かで、なんて呪われているんだろう!

恥ずかしかった。(p.28)

ゴンクール賞受賞作。

3つのパートからなる中編集みたいな趣で、各パートは共通の人物がちらりと出てきてゆるやかに繋がっている。タイトルに引き摺られて読むと(2) には驚くかもしれない。というのも、このパートだけ男に寄り添った視点なのだ。通常だったらファンタに焦点を当てるところをあえてルディを主人公にして語っているわけで、この捻り方はなかなか食えないなと思う。最初読んだときは、「三人の逞しい女」じゃなかったのかよ! みたいな感じで困惑した。

(1) と(2) に共通しているのは、主要な男が脆いところだろうか。

たとえば、(1) に出てくるノラの父親は、経済力を背景にして家族を蔑ろにしてきた。ノラとその母親をあっけなく捨てていた。そんな彼も年老いた現在ではかつての威勢もなく、むしろ金に困っているくらい。ある事情で弁護士が必要になるのだけど、その際、ノラに頼るほどにまで落ちぶれている。家父長制とは父親の経済力によって成り立っているわけで、金がなくなったらその立場は脆くも崩れ去ってしまう。「男の価値は金」という一般論が思い出される。

(2) で主役を張るルディは挫折したエリートである。かつては大学教授を目指し、一時は中世文学の専門家を自任していた。そんな彼がある事件を起こして高校教師を辞めるはめになり、不本意ながらキッチンのセールスマンをやることになる。彼はセールスマンとしては無能で、うだつの上がらない日々を送っていた。さらに、妻のファンタとは夫婦仲が冷え切ってしまう。キッチンが幸せな家庭を象徴するものであることを考えると何とも皮肉だ。つまり、キッチンが売れない=妻との仲が上手くいかない、という図式になっている。個人的にルディの境遇は、同じ男として身につまされるものがあった。

(3) は一転して難民になった女性の苦難を描いている。3つのパートのなかでは一番ハードで、カディの受ける仕打ちは目を覆うようなものだった。難民は弱い立場だから足元を見られていて、とにかく金を要求される。のみならず、売春までさせられている。検問所では軍人から理不尽な暴力を受けていて、この世の残酷さを見せつけられた。寄ってたかって弱者を収奪する構造はまさに弱肉強食の世界。日々安閑とした生活を送っている僕にはショッキングだった。

人の幸せは生まれによって大きく左右される。我々は与えられた手札で勝負するしかない。生まれというスタート地点の不利は本人にはどうしようもないわけで、もっと他者に対して寛容になろうと思った。