海外文学読書録

書評と感想

佐藤順一、座古明史『HUGっと!プリキュア』(2018-2019)

★★★★★

ラヴェニール学園に転校してきた中学2年生・野乃はな(引坂理絵)が、空から降ってきた赤ん坊はぐたん(多田このみ)と、ハムスターのような生き物ハリハム・ハリー(野田順子)と出会う。2人はクライアス社という謎の組織に追われていた。はなは不思議な力でプリキュアに変身して戦う。また、同級生にして学級委員長の薬師寺さあや(本泉莉奈)と、同級生にしてフィギュアスケーターの輝木ほまれ(小倉唯)も、それぞれプリキュアになるのだった。

これはシリーズ最高傑作かもしれない。僕のなかでは今まで『スマイルプリキュア!』【Amazon】が不動の1位だったけれど、本作によってその地位を塗り替えられてしまった。シリーズディレクターの1人は「泣かせの佐藤順一」と呼ばれているらしく、確かに泣けるエピソードが多かった。だいたい僕は「泣けるアニメ」が苦手で、『あの花』【Amazon】なんかは反吐が出るほど嫌いだ*1。あざとくてまともに見てられない。けれども、本作については不思議と泣けるエピソードが嫌味なく入ってくる。両者の違いは何だろう? 1クールアニメと4クールアニメの違い? あるいは大人向けと女児向けの違い? いずれにせよ、これがアニメ屋としての技量なのだろうと感心した。

本作のキャッチコピーは、「なんでもできる! なんでもなれる! 輝く未来を抱きしめて!」だ。少子高齢化によって、衰退した未来が約束された日本。明日に希望がない時代だからこそ、このようなエールを送るアニメが作られたのだろう。本作のラスボスは、人々が笑顔で暮らし続けられる世界を作るため、新たな苦しみが永遠に生まれぬよう、時間を止めて未来を消滅させることを目的にしている。世界をぶち壊そうという悪意ではなく、むしろ善意で行動しているのだ。僕もできることなら歳を取りたくないし、日本が没落していく様を見たくない。今のまま時間が止まってほしい。本作はこうした現代人の潜在意識を中核に据えているわけで、おそろしく犀利な問題設定だと思う。

本作でもっとも印象に残っているのが第11話で、戦闘中のキュアエールが敵の幹部を剣で斬らず、やさしく抱きしめるところに非凡なものを感じた。これが少年向けアニメだったら迷わず斬っていただろう。まさに罪を憎んで人を憎まず。敵のことも心の闇を抱えた1人の人間として捉え、そんな彼に寄り添って病んだ魂を浄化する。バトルものではなかなか見られない展開で感銘を受けた。

それと、赤ん坊で始まって赤ん坊で終わる構成も見事だった。本作では出産や子育てが重要なファクターになっていて、明日へと繋ぐ希望のアニメになっている。正直、将来に不安があることには変わりがないけれども、本作を観て少しだけポジティブな気分になれた。何をしようとも明日は必ずやってきて、命は連綿と続いていく。僕も未来のために頑張って生きようと決意した。

*1:個人的に岡田麿里が関わってるアニメとは相性が悪い。唯一の例外が『とらドラ!』【Amazon】だった。