海外文学読書録

書評と感想

メンヘラの世界~精神障害者を知るための25冊+1~

メンヘラとは、狭義では精神障害者、広義では精神が不安定な困ったちゃんの意味があります。 約20年前に2ちゃんねる(現・5ちゃんねる)で誕生したネットスラングで、今ではそこかしこでカジュアルに使われています。以下に紹介する南条あやの登場によって、メンヘラはサブカルチャーのひとつになりました。

本稿ではそんなメンヘラを理解するための参考文献を紹介します。皆様のお役に立てれば幸いです。

なお、文末につけた推奨度は星5が最大です。特に星4と星5はお勧め本なので、興味がある人は是非読んでください。損はさせません。

 

1999年3月30日に18歳で自殺した南条あやの日記です。日記はWebに掲載されたもので実際はもっと長いのですが、本書は分量の都合上、1998年5月28日、及び同年12月1日から1999年3月17日までを収録しています。

南条あやはメンヘラとは思えない天真爛漫な文章で人気を博し、当時はネットアイドル扱いされていました。彼女は鬱病で、リストカッターで、処方薬のODをしていますが、日記ではそれらをあっけらかんとした調子で書いてます。苦しみを笑いに変える彼女の芸風は、後にTwitterで流行するメンヘラ芸に通じるものがあると言えるでしょう。この頃の南条は、リストカットの代わりに献血に通って血を抜いており、慢性的な貧血に陥ってました。そのうえ、違法に手に入れたデパスやモダフィニルをスニッフしたり、友人と薬物パーティーを開いたり、その無軌道な生活は現代のメンヘラと変わりません。メンヘラのプロトタイプと言えるでしょう。

南条あやは日記を公開してから1年も経たずに自殺しました。精神科への通院歴も1年に満たないです。僕は昔、Webに公開された彼女の日記をすべて読みましたが、本書には一番面白い部分が欠けています。特に入院中の日記はもっと読まれてもいい。完全版の出版が待ち望まれます。 

なお、南条あや亡き後、メンヘラとして有名になったのがメンヘラ神です。メンヘラ神は2013年に飛び降り自殺しました。彼女がなぜ有名になったかというと、当時付き合っていた彼氏が自殺教唆で逮捕され、ニュースになったからです。これによってメンヘラが再び脚光を浴びました。メンヘラ神がTwitterで行ったメンヘラ芸も、現在では伝説として語り継がれています。

林直樹『リストカット』【Amazon】に自傷行為の事例として南条あやを取り上げた章があります。彼女の生い立ちが手際よくまとまっているので、興味がある人は読んでみるといいでしょう。

推奨度:★★★★★

 

綺麗なものたくさん見られた。しあわせ。
そろそろこの世界をはなれよう。

2003年4月26日に飛び降り自殺した女性編集者のWeb日記です(享年26歳)。本書は2001年6月23日から2003年4月26日まで、すなわち自殺直前までの日記が収録されています。

二階堂奥歯は物語、とりわけ幻想文学に耽溺しており、 今まで生きてきた日数以上の本を読んでいたようです。これはただの本好きと呼ぶには半端じゃない量で、1日1冊で計算しても、20代半ばで1万冊近くに達しています。確かに日記を読むと短いペースでたくさんの本に触れていますし、また引用もかなり充実していて、相当な蓄積があるのだろうと思われます。さらに、彼女は哲学も勉強していました。幻想文学も哲学も病んでる人がはまるジャンルです。

日記は当初、コスメやファッションの話題が多くて健康的だったのですが、中盤から書物の引用が増えて内面世界に入り込んでいきます。一度は浮上していつもの調子に戻ったものの、2003年3月23日に自殺の意思を示してとうとう引き返せない場所まで行く。ただ、彼女はもともとそういう素質があったようで、1996年(19歳)の段階で父親から自殺すると思われていました。

無情にも、人間というコンテンツは死ぬことで完成される。そのことを証明したのが二階堂奥歯でした。彼女本人はメンヘラの定義に当てはまるか微妙ですが、この日記はメンヘラが読んで共感する要素が多分にあります。というのも、本書は繊細にして思索的な内容なのです。自分が生きているこの世界、否応もなく立ちはだかるこの世界に違和感がある人は読んでみるといいでしょう。

推奨度:★★★★★

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