海外文学読書録

書評と感想

ジャック・ケルアック『オン・ザ・ロード』(1957)

オン・ザ・ロード (河出文庫)

オン・ザ・ロード (河出文庫)

 
オン・ザ・ロード (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-1)

オン・ザ・ロード (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-1)

 

★★★

1947年。大学生で作家のサル・パラダイスは、新しく知り合ったディーン・モリアーティの破天荒ぶりに憧れていた。サルはディーンに会いにニューヨークを出発してヒッチハイクでアメリカを横断する。その後、車で何度か横断を繰り返し、最後は大陸を縦断してメキシコへ行く。

アメリカの男と女はいっしょにいてもひどく淋しい時を過ごしている。すれてくると、ろくに話もしないでいきなりセックスに入りたがる。まともに口説こうともしない――魂について率直に語り合うべきだ、人生は神聖で、一瞬一瞬、貴重なのだから。(p.81)

河出書房新社の世界文学全集で読んだ(引用もそこから)。文庫が出ていたとは知らなかったよ。

本作はビート・ジェネレーションを鮮やかに描いた小説で、面白い面白くないというよりは、時代を刻印した書物としてただひたすら興味深かった。ちょうど石原慎太郎の『太陽の季節』【Amazon】みたいな感じ。ディーン・モリアーティのモデルがニール・キャサディで、カーロ・マルクスアレン・ギンズバーグ、オールド・ブル・リーがウィリアム・バロウズだと知っていると、その筋の人には面白さが増すかもしれない。

かつてロスト・ジェネレーションというヘミングウェイフィッツジェラルドが属していた世代があって、彼らの生態は『移動祝祭日』【Amazon】という本に記されていて大変読み応えがあったけれど、本作も同書と少し似た匂いがあると思う。何というか、現代とは一味違う文化の香り・風俗の香りがして、何よりみんな若くて放蕩三昧っていうのが重要なファクターになっている。ビート・ジェネレーションという一角の人物たちの交友には胸をときめかせるものがあって、酒と女とジャズとドラッグ、そして路上(ロード)というシンプルな世界にも惹かれる。彼らは貯金などせず、その場しのぎの仕事をしてあちこちを彷徨う。アメリカは壮大な田舎町なのだ。インドア派の僕には路上(ロード)の魅力がいまいちよく分からなかったけれど、昔はこういう牧歌的な雰囲気のなかで作家も生きていたんだなと思った。今よりも世界がずっとシンプルだった時代の話。僕にとってはお伽噺のようであった。