海外文学読書録

書評と感想

閻連科『炸裂志』(2013)

★★★★

炸裂市発展の記録。炸裂村では孔家と朱家が二大派閥を形成していた。あるとき、村民たちはお告げに従い、外に出て人生の運命になるものと出会う。孔家の次男・明亮は皇帝になる運命を得た。やがて財を為した孔明亮は村長になり、前村長の朱慶方を非業の死においやる。朱慶方の娘・朱頴は復讐を誓うのだった。

「くそったれのこの改革開放のご時世、どんな金であろうと稼げばいいのだ。金があってこその旦那さまであり、奥さまであり、金があれば鎮長も県長も言うことを聞く。金のない鎮長、県長など、俺たちの言うことを何だって聞かねばならん孫であり、ひ孫なのだと思えばいい」(p.121)

人口数百人の炸裂村が、村から鎮へ、鎮から県へ、県から市へ、そして市から直轄市へと発展していく。その大きくなっていく過程がまさに中国といった感じで、最初は盗みで財をなして万元戸を増やしていく。その後は金と女が権力を動かすといった体で、通常だったら腐敗と呼べそうな状況なところ、本作ではそんな雰囲気を微塵も感じさせず、猛烈に村が発展していく。この部分で面白かったのは、孔明亮と朱頴で争った村長選挙。どうやら中国では末端レベルだと選挙があるようで、孔明亮が自分に投票するよう村人たちに贈り物をしているのに対し、朱頴が現金を堂々とばら撒いているのには笑ってしまった。こりゃ中国で民主化は不可能だと思ったね。

閻連科本人は「神実主義」と呼んでいるけど、ともあれ、マジックリアリズムっぽい描写も本作の特徴で目を惹く。朱慶方が村人たちから痰を吐きかけられてそれに溺れて死ぬとか、孔明亮が時計の異変を見て父親の死を察知するとか、さらに孔明亮が「ビルを建てるぞ」と宣言しただけで大地からビル生えてくる(権力さえあれば何でもできる!)とか、こういう荒唐無稽なエピソードに違和感がないところが中国の懐の深さなんだなと思う。

この小説のMVPは、何と言っても女傑の朱頴だろう。売春で財をなした朱頴は、金と女を用いて存在感を増していく。彼女は運命の男である孔明亮と結婚するのだけど、要所要所で孔家に仇をなしていくところが面白い。たとえば、配下の女を使って孔明亮の父親を腹上死させたのには唖然としたし、また、炸裂市が直轄市になるというときに有力者へ女をばら撒いて邪魔をするのも可笑しかった。全体的にこの小説に出てくる男って、みんな女に翻弄されている。世の中、金と女がすべてといった感じだろうか。

この小説は紛れもなく現代の中国を舞台にしていて、クリントンやらオバマやらメルケルやらといった外国の要人の名前も出てくるのだけど、その反面、「共産党」や「人民解放軍」といった危険なワードが出てこないところに中国の闇を感じた。もし出していたら発禁になっていたのだろうか? まあ、そういう制約が文学を面白くする面もあるから別にいいのだけど。