海外文学読書録

書評と感想

コーマック・マッカーシー『悪の法則』(2013)

★★★

麻薬取引をしようとしていた弁護士だったが、予期せぬ不運から計画が頓挫し、それを自分のせいにされて組織から命を狙われることになる。

ウェストレイ イエスがなんでメキシコで生まれなかったか知ってるかい。

弁護士 いや、なぜだ。

ウェストレイ 三人の賢者も処女もいないからさ。(p.61)

映画脚本。

ト書きと会話文しかないので、この著者特有の神話的で乾いた文体は封じられていたものの、凄惨な暴力の向こう側に信仰や女を配置するところや、いくぶんの不穏さを滲ませる会話などが著者らしくて面白かった。映画脚本になっても、アメリカ南部とメキシコの危険さがひしひしと伝わってくる。

本作を読んで、我々はなぜ犯罪小説を読んだり犯罪映画を観たりするのだろう? という疑問を呼び起こされた。無事に計画が成功して大団円という犯罪ものも中にはあるけれど、だいたいは失敗して身の破滅を招くような筋書きである。特にこの著者の場合は過度な暴力が出てくるから、読んでいてダメージが大きい。にもかかわらず、怖いもの見たさからか、つい手にとって読んでしまう。登場人物が失敗する様子が見たい。破滅する様子が見たい。我々はそこに快楽を見出しているわけで、人間とは何て不思議な生き物なのだと思う。

ところで、ボリードの針金の環を使った暗殺って実際にあるのだろうか。本作によると、この環を相手の首に引っ掛けて引き締めると、相手は頸動脈から血を吹き出し、首がもげて絶命するという。著者はどこでこの殺害方法を仕入れたのか気になった。