海外文学読書録

書評と感想

チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ『半分のぼった黄色い太陽』(2006)

★★★★★

1960年代のナイジェリア。(1) イボ人の少年ウグウが、同じイボ人の大学講師オデニボのハウスキーパーになる。(2) 裕福なイボ人のオランナが、恋人であるオデニボと一緒に生活するようになる。(3) イギリスから来た白人のリチャードが、オランナの双子の姉に恋をする。やがてナイジェリアで軍事クーデターが勃発、迫害されたイボ人は東部で独立を宣言し、戦争への道を歩むのだった。

「わたしがナイジェリア人であるのは、白人がナイジェリアという国を創立して、そのアイデンティティをあたえられたからだ。わたしが黒人であるのは、白人が、彼らの白人とあたうるかぎり異なるものとしての黒人を構築したからだ。しかし、わたしは白人がやってくる前からイボ人だった」(p.28)

ビアフラ戦争を題材にした小説。参考文献にフレデリック・フォーサイス『ビアフラ物語』【Amazon】が挙がっている。

物語は60年代前半と60年代後半に分けられていて、前者では平和なときの平穏な生活が、後者では戦時中の不穏な生活が語られる。個人的に興味深かったのは、ナイジェリアの階級格差だった。オデニボたち中産階級が、冷蔵庫やガスコンロ、レコードなどを所持するソフィスティケートされた生活を送っているのに対し、ウグウたち庶民には、迷信や呪術師を信じる前近代的な習慣が根づいている。オデニボは仲間たちとよく国の行く末について論じあっていて、教育水準は西洋のインテリ並に高そう。個人的にアフリカは土人のイメージが強かったので、本作に出てくるインテリたちに物珍しさをおぼえたのだった。

でも、そういうのが際立つのはあくまで平和なとき。戦争になると、インテリも庶民も一様に生活が不安定なものになってしまう。食べ物の調達に苦労するのは当然として、男たちは兵士に無理やり拉致されて徴兵されるわ、女たちはレイプされまくるわ、知り合いがどんどん死んでいくわ……。本作はナイジェリアのビアフラ戦争を題材にしていて、その国ならではの特殊性が目立つけれど、市井の生活に関しては普遍的で胸に迫るものがあった。平和なときとそうでないときのギャップがすごい。

それにしても、欧米列強の植民地支配による負の遺産は大きいのだなあ、と本作を読んで改めて思った。中東やアフリカは列強によって好き勝手に国境線を引かれたから、いざ独立しても民族対立や宗教対立といった火種が絶えない。本作のビアフラ戦争もそのモデルケースのひとつで、この理不尽な争いには何とも言えないやるせなさを感じる。

本作は題材の珍しさ以前に、人間関係が丁寧に描かれた一級の文芸作品なので、たとえば新潮クレスト・ブックスが好きな人にお勧めである。