海外文学読書録

書評と感想

ウィリアム・ディターレ『ジェニーの肖像』(1948/米)

ジェニーの肖像 [DVD]

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  • 発売日: 2005/06/27
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ジェニイの肖像(字幕版)

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★★★

ニューヨーク。売れない画家のイーベン・アダムス(ジョゼフ・コットン)が、セントラルパークでジェニー・アップルトン(ジェニファー・ジョーンズ)という少女と出会う。彼女と世間話をするも、住んでいる時代についていまいち話が噛み合わない。奇妙な体験をしたアダムスはジェニーの肖像を描き、それが画商に絶賛される。まもなくジェニーと再会したアダムスは、彼女がだいぶ成長していることに気づく。2人は時空を超えて出会っていた。

原作はロバート・ネイサンの同名小説【Amazon】。

時を超えた恋愛を扱ったロマンティックな映画だった。こういうテーマって、画家という職業と相性がいいと思う。なぜなら、画家はモデルの現時間をキャンバスに保存するのが仕事だから。モデルがいくら歳を取っても、描かれた肖像はそのまま。時空を超えて後世にまで残る。と、そういう時間を切り取る職業だから、自らが時を超えた恋愛をしてもおかしくない。奇妙な幻想譚といった感じで、違和感なく観ることができる。

最初に画商の元に絵を売りに行ったとき、アダムスは「絵に愛が欠けている」と婦人(エセル・バリモア)に酷評される。ところが、ジェニーの肖像を持ち込んだ際には評価が一変、婦人も相好を崩すようになった。後にジェニーの手紙で明らかにされる通り、完全な美とは人を愛することで初めて見つかるのだ。このように愛を芸術の核と見なすところもロマンティックで、これはいい世界観だなあと思える。

エセル・バリモア演じる婦人がだいぶ思わせぶりな態度をとっていたので、ジェニーの成長した姿が婦人なのだろうと早い段階で予想していた。アダムスと婦人の関わり、婦人の一挙手一投足、それらはすべて伏線なのだと思っていた。ところが、終盤になってそれが大きな間違いであることが判明してびっくり。婦人の存在はいったい何だったのか、と首を傾げることになった。これはミスディレクションを狙ったのかもしれないし、何か別の意図があったのかもしれない。思い返すに不思議な感じがするのだった。

少女から成年まで、ジェニファー・ジョーンズが幅広い年齢を演じるのは、当時としては挑戦的だったと言える。現代だったら特殊メイクやCGで誤魔化すことができるけれど、70年も前ではそれも無理だった。さらに、終盤では『オズの魔法使』【Amazon】を彷彿とさせる映像上の仕掛けもあって、これも当時としては頑張っているように思える。ラストで現れるジェニーの肖像には詩情があった。また映像については、所々に絵画のようなフィルターもかかっている。本作はテクノロジーの使い方に工夫が見られて好ましい。

ジョージ・スティーヴンス『シェーン』(1953/米)

シェーン HDリマスター [Blu-ray]

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  • 発売日: 2018/09/10
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シェーン(字幕版)

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★★★

1890年のワイオミング州。ここでは牧場主と開拓農民の間で土地をめぐるトラブルが起きていた。開拓農民の一人ジョー(ヴァン・ヘフリン)は、妻マリアン(ジーン・アーサー)と息子ジョーイ(ブランドン・デ・ワイルド)の3人暮らし。彼は古株の牧場主ライカー(エミール・メイヤー)と揉めている。そんななか、流れ者のシェーン(アラン・ラッド)が馬に乗ってやってきた。

映画としてはやや間延びしてる感じがするものの、開拓地の雄大な雰囲気が伝わってくるところが良かった。囲いの中で家畜を飼い、荒れた土地を耕す。住居はもちろん手作りだ。こうやって自給自足の生活をするのが、今流行りの「丁寧な暮らし」ってやつだろう。今更こういう生活は送れないにしても、潜在意識に眠る憧れを喚起されたことは確かだ。3日間限定のホームステイなら試しにしてみたい。

土地は西部劇においてしばしば係争の対象になっている。本作の場合はホームステッド法が関係しているようだ。牧場主のライカーは古くからの住人で、インディアンやならず者からこの土地を守ってきた。容貌からして年季の入った苦労人である。彼には古株という自負があるから、後から住み着いて自分の権利を脅かす開拓農民が許せない。全員を退去させようと露骨な嫌がらせをしている。彼のやってることは非道で、悪人なのは間違いないのだけど、その背景には情状酌量の余地があって、観ているほうとしてもなかなか複雑なのだった。

西部の男たちはとにかく「臆病者」のレッテルを貼られるのが嫌なようだ。温厚なシェーンでさえもそう思っていて、酒場での無謀な乱闘に及んでいる。ジョン・ウェインを彷彿とさせるタイマンでの殴り合いから、1対多数の大乱闘へ。圧倒的に不利な状況の中で喧嘩している。さらに別の開拓農民は、凄腕のガンマンに挑発されて銃を抜き、あっさりと撃ち殺されてしまうのだった。それもこれも「臆病者」と笑われるのが嫌だからで、現代人としてはこのマチズモにぞっとする。「男らしさ」を守ることが何よりも重要な社会は、僕みたいな軟弱者にとっては息苦しい。こんな見栄のために命を賭けるなんてまっぴらごめんである。

本作のクライマックスは、シェーンとガンマンが抜き撃ちで決着をつけるシーンだろう。ここは緊張感が抜群で素晴らしかった。お互いが拳銃を抜くまでの間が最高である。こうやって一瞬で片がつく勝負は見応えがあるなあと感心した。

イングマール・ベルイマン『仮面/ペルソナ』(1966/スウェーデン)

仮面/ペルソナ

仮面/ペルソナ

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★★★★★

女優のエリザベート(リヴ・ウルマン)は舞台でセリフが喋れなくなった後、失語症を発症して入院する。病院で検査するも原因は不明だった。エリザベートは医者の勧めにより、看護婦のアルマ(ビビ・アンデショーン)と海辺の家で転地療養する。アルマはエリザベートに自分がむかし犯した過ちを話すが……。

女の友情を描いているのかと思ったら、そんな生易しい話じゃなかった。これは過酷な女性性を描いた話だった。

エリザベートとアルマは、一見すると年齢も違えば社会的立場も違う赤の他人である。けれども、2人は魂の双子のような強い引力があって、それが終盤で超現実的な現象として発露している。象徴レベルの話をすると、エリザベートとアルマは分裂した人格で、これは一人の人間の矛盾する内面を表現しているのだろう。息子を嫌悪するエリザベートが沈黙し、代わりにアルマという治療者が生まれる。アルマが赤裸々に自分の過ちを語るのに対し、エリザベートは頑なに自分の本心を隠す。沈黙と饒舌がコインの裏表のように交錯しているのだ。このように2人は相互補完的な関係ではあるけれども、だからといって穏やかに過ごせるわけでもない。エリザベートはアルマのことを裏であざ笑っている。そのことを知ったアルマは怒り、反発し、2人の関係は危機に陥る。そして、それを機に2つの人格は核融合的な反応に向かう。終盤の超現実的な展開には驚きがあって、前衛映画みたいな演出と上手くマッチしていた。

2007年に衆議院議員柳澤伯夫が、女性を「産む機械」と表現して物議を醸したけれど、しかし、それが女性性の本質であることは疑いようがない。現状、妊娠できるのは女性のみである。男性にはできない。だから女性性を論じる際に出産の問題は外せないし、それから目を背けることは許されないだろう。ともあれ、「産む機械」である女性は、妊娠の恐怖に囚われている。夫婦が子供を作ろうと思った場合、犠牲を払うのは常に女性の側だ。女性は肉体的・精神的苦痛のもとで子供を産む。そして、女性は自分を苦しめた子供に憎しみの感情を抱く。頭では愛さなければと思いながらも、本能では子供を憎んでいるのだ。それゆえに女性は育児ノイローゼにかかり、しばしば精神科医のお世話になるのである。エリザベートの場合、憎しみの感情を沈黙によって抑えていた。愛しているふりをしたくない。嘘をつきたくない。そう思った結果、自分の本心を沈黙の仮面で隠すことになった。本作はこの時代に母性本能という通念を否定したところが画期的で、近年の科学的研究を踏まえると、その女性観は鋭いと言える。ここまで女性性に肉薄した映画はないのではないか。

というわけで、女性とは何か? と疑問に思っている人は本作を観るべきだ。女性性の過酷さを前衛的な演出で表現している。男性の僕にとっては刺激的な映画だった。

リチャード・アイオアディ『嗤う分身』(2013/英)

嗤う分身 [Blu-ray]

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  • 発売日: 2015/07/02
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嗤う分身

嗤う分身

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★★★★

共産圏ディストピアみたいな世界。サイモン・ジェームズ(ジェシー・アイゼンバーグ)は周囲に軽んじられている不器用な会社員だったが、コピー係のハナ(ミア・ワシコウスカ)に気があった。あるとき、彼と瓜二つのジェームズ・サイモン(ジェシー・アイゼンバーグ)が職場にやってくる。ジェームズは何でもこなせる優秀な人間で、サイモンにとって理想の自分だった。

原作はフョードル・ドストエフスキー『二重人格』【Amazon】。

ウィリアム・ウィルソン」【Amazon】みたいな話を『未来世紀ブラジル』の世界観でやっていて面白かった。他にも『裏窓』【Amazon】からの引用があるし、ビッグブラザーAmazon】みたいな「大佐」が出てくるし、文学好き・映画好きへの目配せが感じられる。

「特別」になりたいというのがサイモンの切実な願いなのだけど、どうあがいてもそれが達成できないところに悲しみがある。本作の舞台である共産圏ディストピアでは、「人は仕事であり、仕事は人である」がモットーだ。そこには特別な人はいないし、いるのはただの人である。人間が労働のための規格品と化した世界。ただ、それでも小さな差異はあって、社内では優秀な人間とそうでない人間に色分けされている。要領が悪いサイモンは後者だった。特別な人などいない世界なのに、それでもカーストの最下層で喘いでいる。サイモンは人並みのことすら人並みにこなせない。本人もそのことを自覚していて、「これは僕じゃない」と現実を否認している。そして、そんなときに理想の分身であるジェームズが現れるのだった。

ジェームズがサイモンの生活を侵食し、彼から「存在」を奪い取る筋書きは想定の範囲内である。サイモンは数少ない拠り所であるハナ、さらには家族までも奪われた。しかも、奪った相手は自分の理想を形象化したような分身である。サイモンは自分のことをピノキオだと思っていて、「自分は本物ではない」と悩んでいた。しかし、いざ目の前に本物が現れると、その状況は加速していく。分身に何もかも奪われ、自分から「存在」が剥ぎ取られる。「存在」とは周囲から認められることであり、認められない人間は「幽霊」でしかない。「幽霊」になったら生きてる甲斐もなく、サイモンがラストでああいう手段に出たのも納得できる。

結局のところ、本作は承認をめぐる話なのだろう。誰にも承認されない人生がいかにつらいのか。待っているのは圧倒的な孤独しかなかった。さらに、本作ではサイモンが自己愛に浸ることすら禁じられている。理想の分身たるジェームズに好意を寄せようとしても、「ゲイは嫌だ」と撥ねつけられてしまうのだ。他人から承認を得られなければ、自己愛に逃げることも許されない。サイモンの切羽詰まった状況は、現代人の病理を表していると言える。

ルイス・アレン『三人の狙撃者』(1954/米)

三人の狙撃者 [DVD]

三人の狙撃者 [DVD]

  • 発売日: 2011/02/16
  • メディア: DVD
 
三人の狙撃者(字幕版)

三人の狙撃者(字幕版)

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★★★★

大統領が列車でカリフォルニア州の田舎町サドンリーを来訪することになった。地元警察のトッド・ショウ(スターリング・ヘイドン)やシークレットサービスの面々が、警備体制を整えるべく大わらわになる。そんななか、未亡人エレン(ナンシー・ゲイツ)の家に、FBIを名乗る3人の男たちがやって来た。彼らは、ジョン・バロン(フランク・シナトラ)、ベニー・コンクリン(ポール・フリーズ)、バート・ウィーラー(クリストファー・ダーク)と名乗り、丘の上にあるこの家が狙撃に使われないか見張ると言ってくる。

フランク・シナトラ主演のフィルム・ノワール。彼が複雑な内面を持った殺人鬼を好演していて面白かった。シナトラ演じるバロンは、一見すると金で殺しを請け負うプロフェッショナルみたいだけど、その割には人質相手にペラペラと自分語りをしたり、仕事の手順が雑だったり、どこか素人臭いところがある。彼は戦場でたくさんの敵を殺したことが自慢のようで、それが高じて大統領暗殺計画の実行犯に志願したようだ。過酷な戦場体験で歪んでしまったのか、それとも自分をサイコパスだと思わせたいのか、その辺の真相は分からない。けれども、人質相手に感情を剥き出しにし、人間性を全開にしているところが面白く、久々にヒューマンドラマを観た気分になった。

「銃」が本作のキーアイテムになっている。未亡人のエレンは夫を戦争で失ったことから、銃を過剰なまでに忌避している。息子がおもちゃの銃を欲しがることすら許さない。その一方、義父や保安官といった周囲の男たちは、現実を知ることの必要性を説いている。この世界は暴力に満ちており、銃がないと身を守ることができない。平和や人権といった理想だけでは暴力に対抗できないのだ。このテーマが作品全体を貫いていて、中盤ではバロンが人質相手に、「銃を持てば神様」とか「銃があれば人の生死をコントロールできる」とか言い放っている。実際、人質になった男女は銃によって制圧されたのだった。このように銃の暴力性を中核に据えたところが本作の肝で、結果的には一本芯の通った映画に仕上がっている。

現代になってもなぜアメリカは銃社会なのか? 本作にはその根底にある思想が描かれているので、アメリカ文化に興味がある人は必見だろう。