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ベン・ファウンテン『ビリー・リンの永遠の一日』(2012)

ベン・ファウンテン ★★★★☆
ビリー・リンの永遠の一日 (新潮クレスト・ブックス)

ビリー・リンの永遠の一日 (新潮クレスト・ブックス)

 

★★★★

イラク戦争。19歳のビリー含む8人のブラボー分隊の兵士たちは、英雄としてテキサスのスタジアムに駆り出されていた。彼らはフットボールの試合で、芸能人たちと戦意高揚の見世物になっている。兵士たちはこれが終わったら中東に帰任することになっていた。

彼らの年齢がいくつであれ、人生での地位がどうであれ、同胞のアメリカ人たちのことをビリーは子供であると考えずにはいられない。彼らは大胆で、誇り高く、自信たっぷりだ。自尊心に恵まれすぎた賢い子供のようであり、どれだけ教え諭しても、戦争が向かう先の純然たる罪の状態に彼らの目を開かせることはできない。……アメリカ人は大人になるために――そしてときには死ぬために――よそに行かなければならない子供なのだ。(62)

全米批評家協会賞受賞作。

アメリカという国を皮肉の効いた筆致で描いていて面白かった。とある翻訳家が「アメリカの小説は無国籍化した」とどこかで書いていたけれど、それはとんでもない間違いなのではないか。また、別の翻訳家は「アメリカ文学はアメリカを語らなくなった」と書いていたけれど、これもとんでもない間違いなのではないか。まあ、もしかしたら本作が例外なだけかもしれない。いずれにせよ、本作みたいな気の利いた小説を読むと、アメリカ文学もまだまだ捨てたものじゃないなあと思う。

アメリカはフットボールとチアガールが大衆娯楽の華で、人々は祈ることがやたらと好き、資本家たちは兵士たちの英雄的行動を映画にしようと目論み、しかもその映画にはヒラリー・スワンクが主演をしたがっている(モデルになった兵士は男だというのに)。ブッシュ大統領を含む政権上層部は、ベトナム戦争のときに兵役逃れをしたにもかかわらず、若い世代には戦争を押し付けていた。同様にアメリカ国民も、自分は戦場に行きたくないくせに、戦争は熱烈に支持している。この圧倒的歪みが、卑語や罵倒語で話す兵士たちと呼応し、さらにはショーの狂騒と同調することで、とんでもないグロテスクな空間を作り出している。戦場を舞台にしていないのに戦争の本質を暴いたのが本作のすごいところで、ポスト9.11のアメリカを肌に感じたいのだったら本作は必読だと思う。