鄭義『神樹』(1996)

神樹

神樹

 

★★★

山西省の山村。樹齢数千年の神樹が花を咲かせた。それを機に村にゆかりのある亡霊たちが次々と現れ、過去の出来事を呼び覚ましていく。やがて村には大勢の参拝客が訪れるようになった。そこへ共産党が迷信を打破するために戦車隊を送り込んでくる。

「お前だって共産党だ、党の言うことが政策だ、ってことぐらい知っとるだろう。毛主席もおっしゃった――政策と策略は党の命である。今日の名誉回復も政策、昨日の闘争鎮圧も政策だ。今日は今日の形勢あり、昨日は昨日の必要あり、今日の政策で昨日の政策を否定できるもんかね」(45)

亡命作家じゃないと書けないような内容でなかなか刺激的だった。共産党や解放軍、さらには血の日曜日事件天安門事件)が名指しで出てくるなんて、現代中国文学ではまずお目にかかれないような気がする(莫言の小説に出てきたかもしれないが記憶が曖昧)。それと、読んでいる最中は似ているとは思わなかったけど、最後まで読むと『百年の孤独』【Amazon】を参考にしていることが分かって感慨深い。終わり方がもろそんな感じだった。

現在と過去を自在に行き来しながら、抗日戦争、土地改革、文化大革命などといった半世紀にわたる村の歴史を掘り起こしている。こういう中国の大河小説を読む醍醐味って、時代に翻弄される民衆の生き様を体験することにあると思うので、その意味では満足のいく読書体験が出来たかもしれない。毛沢東の写真が載った新聞紙で煙草を巻いたら反革命分子にされたとか、文革のときにスローガンを間違えて「打倒毛主席!」と叫んだために失脚しただとか、冗談のようで現実にありそうな小ネタが笑いを誘う。

また、本作の舞台になった山村でも血みどろの権力闘争があって、容赦なく人が殺されているところが中国らしい。特に土地改革や文化大革命といった政治の節目が危なくて、中国に産まれると人生ベリーハードだなとつくづく思う。しかも、過去には権力をめぐって互いにしのぎを削っていた人たちが、現代では平和に共存しているところが何とも言えない。僕だったら一度受けた怨みは一生忘れないけど、中国で生きるということは、そういうのを水に流す度量が必要なんだろうなあ。この辺、中国人のたくましさとおおらかさが感じられる。

村人たちと戦車隊の対決は、天安門事件の再現といったところだろうか。神樹を守ろうと命をかける村人と、それを踏みにじる人民解放軍。本作は文学好きの日本人よりも、情報統制された現代の中国人にこそ読んでもらいたい。

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