海外文学読書録

書評と感想

ミヒャエル・エンデ『モモ』(1973)

モモ (岩波少年文庫(127))

モモ (岩波少年文庫(127))

 

★★★

浮浪児のモモが、町外れの円形劇場跡に住み着く。彼女には人の話を聞く才能があり、町の人たちから慕われるようになった。ところが、町に「時間どろぼう」がやってきて状況は一変する。大人たちは時間に追われるようになるのだった。

時間をケチケチすることで、ほんとうはぜんぜんべつのなにかをケチケチしているということには、だれひとり気がついていないようでした。じぶんたちの生活が日ごとにまずしくなり、日ごとに画一的になり、日ごとに冷たくなっていることを、だれひとりみとめようとはしませんでした。(106)

一読した感想は、「村上春樹っぽい」だった。日常に侵食してくる異界のものという枠組みは、まさに『羊をめぐる冒険』【Amazon】以降の村上春樹といった感じ。村上春樹が本腰を入れて児童文学を書いたらこうなるんじゃないかとか、村上春樹は本作を参考にして創作してるんじゃないかとか、読んでいる最中、そのようなことが脳裏にこびりついて離れなかった。

マックス・ウェーバープロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』【Amazon】によれば、プロテスタントカルヴァン派は、人は死んだら天国へ行くか地獄へ行くかの二者択一で、みんな天国へ行きたいから一生懸命に働く、富を蓄積しても休まずに働く、だからアメリカの資本主義が発展したのだという。本作の価値観はそれとは正反対で、一見して無駄とも思える時間がどれだけゆとりを生んでいるか、人は何のために生きているのか、という人生の根本的なあり方を問いかけている。僕は天国も地獄も信じていないから、本作の価値観に共感するけれども、これをたとえば「家庭よりも仕事が大切」的なビジネスマンが読んだらどう思うのか気になった。

陽気なストーリーテラーのジジが、時間どろぼうの策略にはまって芸能人になる。富と名声は手に入れたものの、常に時間に追われていて、モモと楽しく過ごしていたあの愛おしいひとときから遠ざかってしまう。何が幸せかは人それぞれとはいえ、高度資本主義経済が人間から牧歌的な時間を奪ってしまう寂しさが感じられた。