海外文学読書録

書評と感想

ピエール・ルメートル『天国でまた会おう』(2013)

★★

第一次世界大戦。戦場で上官の不正を目撃したアルベールは、砲弾の穴に生き埋めになって死にそうになる。それを助けたのは同僚のエドゥアールだった。しかし、エドゥアールはその代償として顔面を失うことになる。戦後、2人は同居して貧乏暮らしをしていたが、あるとき、エドゥアールが大金を手に入れる詐欺を思いつく。

エドゥアールは胸が高鳴るような、勝利のひとときを味わった。アルベールに対する勝利ではない。人生に挫折して以来初めて、力が湧いてくるのを感じた。未来が自分の手にかかっていると、勝てると思うことができた。

ゴンクール賞受賞作。

単行本で読んだ。引用もそこから。

序盤に分かりやすい悪党が出てきたので、「これは勧善懲悪のお決まりのエンタメだろうか?」と思って読んでみたら、概ねそんな感じの内容だった。

本作ははっきり言ってつまらない。ミステリ作家による文芸小説という触れ込みだけど、文芸らしいところはストーリーの展開が遅いところくらい。人物描写はエンタメらしく薄っぺらいし、地の文には魅力がまったくないため、この遅さは致命的でとても退屈だった。物語が動くのがだいたい半分をすぎたくらい。さらに、スリラーっぽい手に汗握る展開になるのが、終盤の数十ページ。不正をした上官が最後に転落するところは爽快だし、エドゥアールの顛末は運命的でなかなか意外だったけれど、そこに至るまでがあまりにつまらなく、読者としては義務的にページをめくっているところがあってしんどかった。

本書は訳者あとがきで、新聞や雑誌の書評をずらずらと引用している。経験上、こういうあとがきはだいたい駄目な小説に多いので、翻訳小説を選ぶときの参考になるだろう。本当に素晴らしいと思ったら、そんなのに頼らず自分の言葉でその良さを熱弁するはずだから。売らんかなが先行して手を抜くのはホント良くない。

なお、本作は2017年に映画化されている。監督はアルベール・デュポンテル