海外文学読書録

書評と感想

パトリック・モディアノ『エトワール広場/夜のロンド』(1968,69)

★★

中編集。「エトワール広場」、「夜のロンド」の2編を収録。

「エトワール広場」(1968)

フランス人は皆、回想録を書く娼婦に、男色の詩人に、アラブ人のヒモに、麻薬中毒の黒人に、そして挑発的なユダヤ人にぞっこんだった。道徳は跡形もなかった。ユダヤ人は高級品で、わたしたちは尊重されすぎていた。(p.25)

著者のデビュー作。

正直言って、どこが面白いのかさっぱり分からなかった。本作は金持ちのユダヤ系フランス人が語り手なのだけど、これがまた人を食っていて、時空を越えた様々な場所に自分を存在させ、虚実織り交ぜたエピソードを語っている。フランス流の法螺話というべきか、どれが小説内における事実で、どれが語り手による想像なのか判然としない。さらに、実在の作家や歴史的人物の名前を大量に出すことで、情報の洪水を形作っている。茫洋とした、一筋縄ではいかない小説だった。

こういうのってフランス人には受けがいいのだろうけど、個人的にはいまいちそそられなかったかな。ユダヤ人のアイデンティティ問題にもさほど関心がないし。

「夜のロンド」(1969)

二十歳でサツの犬とゆすりをすれば、あなた方だってかなり肩身が狭くなる。(p.159)

最初はナチ時代の二重スパイの話ということしか分からなかったけど、最後まで読んでフランス人の私設警察なるものがあることを知った。だから登場人物の一人が「警視総監、警視総監」言ってたのか。それにしても、フランス文学っていつからこんなに読みづらくなったのだろう? 19世紀は分かりやすいエンターテイメントばかりだったのに。ちょっとその歴史を繙いてみたくなった。